服の生産が地球を壊す…一方的な「アパレル環境破壊論」にみる、正しい問題解決の手法

河合 拓
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アパレル環境破壊を食い止める結論が、なぜ草木染めなのか?

バングラデシュの衣料品工場
バングラデシュの衣料品工場(2021年 ロイター/Mohammad Ponir Hossain)

 日本についても考えてみよう。映画「ああ、野麦峠」という映画では、女性の工員が過酷な労働環境のもとで絹を生産し、日本の輸出期間産業として国を大いに潤わせた。何人もの若い女性が命を落としたそうだ。いわゆる9大商社と呼ばれる大手総合商社は、ほとんどが繊維事業を生業としていることを、若い人は知らないのだろう。今の豊かさの土台には繊維産業、そして、悲しい時代があったのだ。

 中国で ”UFO” という冷暖房完備の全寮制の工場では、フルラインナップ生産が可能だった。もう時効だから告白するが、当時、ゴールドマンサックスの依頼を受け、テキスタイル業界に詳しく、デューディリジェンスができるコンサルタントとして同社に足を運んだ。しかし、この工場は、ここでは書けないような闇の部分もあり結局投資は流れ、倒産した。当時、完全冷暖房、しかも個室で全寮制で食堂付きの工場などありえなかった。当然、コスト競争で負けたのだ。

 「擬麻コットン」という素材がある。これは、綿花に特殊な染料を塗ることで、麻のような「シャリ感」を出す、英語で imitation ramie という。これは台湾で作られているのだが、実は、発祥は日本である。

 日本ではごく一部の地域でしか生産されていないのは、この特殊染料というのが有害物質を含んでいるためだ。私は、30年前に台湾に行き、この擬麻工場を見て、垂れ流される汚染物質に吐き気を覚えたことがある。

 「環境破壊をしている2番目の悪徳産業アパレル」 
 そのようなことをいう人たちは例外なく、「オチ」で日本の草木染め(植物染料)などの事例を出し、「このような取り組みが環境破壊を食い止める」という。

 このロジックに強烈な違和感を感じないだろうか。考えて欲しい。おおよそ、地球に住む人間で「裸(はだか)」で生活している人はごく一部を除いていない。つまり、「環境破壊の分母」は地球全体の人口なのである。産業効率からいえば、飛行機や自動車産業のほうがよほど環境破壊をしているが、そういう産業は批判されない。

 問題解決を訓練された人は、全人口の経済活動の話の解決案に、なぜ、far east の、さらに5%未満となった生産の、さらに田舎の産業集積地区の草木染めの事例が解決策なのかと、その論理破綻におかしさを覚えるだろう。解決策などといっても、ゼロの数が20も30も違う。百歩譲ってどうしてもアパレルを批判したいなら、なぜ、もっと大量生産をしている世界のグローバルSPAを批判をしないのか。大人の事情があるのはわかるが、これは「集団いじめ」と同じ構造ではないかと思う。

 知識人、有識者達は、先にあげた擬麻のように、日本が有害物質を日本で作れないからといって海外に工場を持って行ったことを知っているのだろうか。それで、擬麻のような服は夏に着て「ファッションコーデ!」などといい、「このコットンがリサイクルでーす!」などといっているのだから失笑を超えて正視に耐えないのである。

 

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