アパレル不振の根源「作りすぎ」、作らなければ利益激減 この二律背反を解決する方法

河合 拓
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作りすぎを止めれば利益激減する事情

 考えてみて欲しい。日本には2万社弱の中小零細アパレル企業があり、彼らはそれぞれ別々にマーチャンダイジング計画を立て調達をしている。ある準大手(といっても日本の場合は年商1000億円程度だが)のアパレル企業が生産量を8割にするという記事がメディアに掲載されたが、それは10兆円市場規模において、わずか0.002%の努力に過ぎないし、仮に3000億円の企業が衣料品の生産量を半分にしても、0.015%の話なのだ。

 あり得ないことだが、万一、業界が足並みを揃えて一斉に調達量を半分にしても、必ず、「よし大儲けできる」と誰かが数倍の生産を行って「一人勝ち」を狙いにゆくだろう。過去、某百貨店が、業界が足並みを揃えセール時期をずらそうというかけ声をかけたが、やはり続かなかったし、ヨーロッパでも同様の試みがあり、セール時期を業界が足並みを揃えて遅らせるということを法的強制力をもってやったことがあったようだが、いつしか消え去った。

 当たり前である、そもそもの値付けがおかしいのだから値引きが発生する。一方、ワークマンのオフ率はわずか5%以下だし、ハニーズもほとんど値引きはしていない。これは、サプライチェーンやプライシング、つまり、ビジネス上の問題で、個々の会社が解決すべき課題なのだ。

 話を余剰在庫に戻すと、「作りすぎだ」「余剰在庫を減らせ」といわれても、個々の企業からいわせれば、「では、具体的にどうすればよいのか」と聞き返すことだろう。衣料品の量を減らして雑貨などの量を増やせといわれても、衣料品をSPA(製造小売)で上手に生産すれば、企画原価率は20%台まで下げられるが、非衣料品や完成品の仕入原価は40%以上である。この仕組みは「ものづくりの現場」に明るくなければ分からない。

 固定費をまかなうだけの売上をあげ、かつ利益を上げるにためには、企業は衣料品の割合を増やすということが当たり前の選択肢となる。私は、新規事業計画モデルを幾度もつくってシミュレーションしてきた。そして、日本という国で高い人件費を払い、高い地代を払って店を構えれば、よほど高い利益率を上げなければ成立しないことに愕然としたことは一度や二度ではない。「ここまで小売ビジネスは難しいのか」とため息をついたこともある。

 こうしたシミュレーションもせず、いわゆる「どんぶり勘定」で事業をしている企業が何社もあることに驚くことも多い。ぜひ、作りすぎを批判する人は、事業主に「あなたは、なぜ衣料品ばかりつくるのだ」と聞けばよい。必ず「衣料品はうまくやれば儲かるからだ」と答えるだろう。

 こうした構造上の問題の解決の道程を示さず、ただ「作りすぎだ」と叫んでも、何も問題は解決しないのである。実際、市場が縮小すればするほど投入量は増え、企業の消化率は減っている。帝国データバンクの調査によれば、上場アパレル企業の75%が昨対比を下回っている状況であり、今、再建屋である私のところにも今までに無いほどの相談が増えてきた。

 

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