実は誰も分かっていない「D2C」の本当の意味

2020/08/04 05:55
河合 拓

昨今、「D2C」(ディレクト・トゥ・コンシューマー)がブームである。ファッション業界のメディアや論説記事を見ると、D2Cという言葉がでてこない日はないほどになっている。また、ググってみると、「今さら聞けないD2C」という言葉も出てくるのだが、この言葉の意味を「今さら」分かっている人が果たしてどれだけいるのか。

William_Potter / istock
William_Potter / istock

「D2Cの定義は何か」という質問に答えられるか?

 皆さんは、「D2Cの定義は何か?」という質問に答えられるだろうか。 

 そして、「なぜ、D2Cだとアパレル不況の中で自社が競合に勝てるのか?」ということの明確な回答を持っているだろうか。

 この2つの質問に答えられなければ戦略としては不完全といえる。私たちは、AI、クラウド、DX(デジタル変革)など、デジタル用語や流行の言葉で本質を見誤ってきたし、コロナで苦しい状況の中、十分な理解がなきまま投資をし、仮に失敗しても、次のステップに移行することは困難になる。不確実性が増す時代、失敗は成功の糧となるべきだ。そのためには、流行の言葉、とくに横文字ほど注意が必要なのである。

 このような危機意識から、氾濫するD2Cという言葉について二度にわたって定義論を語りたいと思う

企業の中に「治外法権的なビジネス組織」を作りにくくなった理由

 まずアパレル企業を含むビジネス環境における正しい情勢認識から整理したい。

 コロナ禍で窮地に陥っているといわれるアパレル業界だが、勝ち残りを賭けて取り組むべきは、ますます競争が激化する環境下においてユニクロ、ZARA、無印などのグローバルに展開し、また世界で評価が高い企業との差別化戦略である、ということに異を唱える人は居ないだろう。私たちは、やや上から目線でいわせていただくと、これまで、わかったようなわからないような「Amazonエフェクト」など舶来性のバズワードで、本当の競争相手を見失ってきたのは幾度も申し上げたとおりだ。そもそもAmazonは日本でアパレル品など力を未だに発揮していないし、売っていても現時点ではそれほど脅威でもないことは過去掲載した分析の通りである。

 しかし、アパレル業界は、個社に目を向ければ、数社を除いて危機的状況に陥っているし、こうした状況を打破するためには、数十年前と同じことをやっていては破滅の道が待っているだけである。一方、現実問題として企業、特に大企業において、今までにないような革新的な改革を成し遂げることは極めて難しい。多くの企業が採用するヒエラルキー型組織は、指揮命令系統が明確で大きな組織を動かすのに秀でている一方で、スピーディな意思決定が難しく、組織の硬直化を招きやすいからだ。

 私は前作『ブランドで競争する技術』(ダイヤモンド社)において、「出島理論」という手法を提唱、既存の組織の枠外で改革組織をつくり、「小さな成功」を作り、「大きな成功」へ繋げることが必要だと説いた。

 しかし、昨今のERP(企業資源を適切に分配し有効活用する計画)やDXによって、企業体の中に治外法権区域をつくり、KPI(重要経営指標)もビジネスモデルも全く異なるビジネスを成立させることは難しくなってきた。良い意味でも、悪い意味でも企業の隅々までもがデータ連係され、一つの謝った意思決定が、あたかも数十年前にビルゲイツがその著書「思考スピードの経営」で予測したごとく、末端神経まで瞬時に行き渡るようになってしまっている。

 日本企業は、戦略なき多角化、M&Aを繰り返し、またデジタルは、企業間連携を促進し、国境を越えて一つの製品やサービスを創るエコシステムを構築する。現在の企業体は、まさに出島の集合体であり、先進的な企業であるほど、全く異なる事業の複合体となっている。Appleを例にすれば、彼らは音楽や映画などのエンタメの販売もすれば、スマホやパソコン販売もする、Amazonも単なるEC企業ではなく、実際の収益の大部分はクラウドと呼ばれるシステムアーキテクチャーから得ていることはよく知られている。このように、企業体の中で異なる事業を併設することは、すなわちイノベーションを生み出す手段ではもはやなく、国境を越えたグローバルエコシステムをつくる目的となってしまったわけだ。

 

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