新業態の「高質食品専門館」が好調、今年度は「第2の創業」=阪食 千野和利 社長

聞き手:千田 直哉 (編集局 局長)
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幅広い立地に対応できる新業態

──景気低迷が続く中、どの流通企業も低価格志向の店づくりに力を入れています。「高質食品専門館」は、そのトレンドに逆行するように思えます。

千野 事業展開する京都、大阪、神戸のいわゆる京阪神マーケットについて詳しく分析してみました。結果、いくつかの傾向がわかりました。

 まず、このエリアのとくに都市部においては、全国水準よりも少子高齢化が早く進むであろうということです。次に、われわれが考えているよりも早く消費の二極分化が起こると見られることが挙げられます。そして、これらに伴って高所得者の消費の変化も急速に進んでいく、ということです。さらに百貨店を背景に持つ阪急ブランドにふさわしい分野、戦い方という条件を考慮し、導き出したのが「高質食品専門館」というわけです。

──シビアに立地を選ぶ業態ですか。

千野 いえ、決してそうではありません。確かに、1号店の千里中央店は、駅前にある高所得者層も住むマンションの1階に出しました。その立地に見合うよう、店内照明を暗めにし、什器や装飾などにもかなりの高級感を持たせました。

 しかし3号店の住吉店は、それまでの商圏特性とは違った立地を選びました。都市部ではあるけれど、いわゆる下町で、低価格への要望も強い環境です。周辺には大阪を代表する有力SMも数多くあります。そのような激戦区の中にあっても、初年度目標12億円に対し、年商16億円が期待できるほどのペースで売上は伸びています。店内の雰囲気も明るく、1号店のような気負いが和らぎ、業態として少しずつ進化しています。

── 一般的な高質SMに比べ、幅広い立地に対応できるのが特徴ですか。

千野 4号店は京都にオープンした山科店ですが、この周辺も強い支持を得ている地場SMのほか、複数の競合がしのぎを削っているエリアです。

 しかし前述のとおり、当初の目標を大きく上回る売上で推移しています。当初は不安もあったのですが、出せば勝てる、と自信を持つことができました。

──この業態を開発するに当たり、どのような企業を参考にしたのですか。

千野 1年以上の歳月をかけ、国内外問わず多くの店を見て学びました。香港のCity Superをはじめ、流通先進国のアメリカでは、とくにホールフーズ・マーケット(以下、ホールフーズ)が大いに参考になりました。08年9月のリーマンショックの影響などにより低迷していた同社が、ちょうど復調の兆しを見せはじめたころです。高質なイメージを維持しながら、ふだん遣いの店になるための大きなヒントをもらいました。

お客さまの目の前で素材を加工

──ホールフーズで見た、高質感を維持しながらふだん遣いの店になるための要素とは何なのでしょうか。

千野 コモディティ(生活必需品)を、しっかりと買ってもらえるような価格で提供することです。生活者に対し、ストライクゾーンに入るような取り組みをしているホールフーズの店づくりに感銘を受けました。

 店舗はローコスト化の手法を持ち込んでいるようでしたが、高質感や洗練さには磨きをかけていたことも強く印象に残っています。とてもいいタイミングで見ることができたと思っています。

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聞き手

千田 直哉 / 株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア 編集局 局長

東京都生まれ。1992年ダイヤモンド・フリードマン社(現:ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。『チェーンストアエイジ』誌編集記者、『ゼネラルマーチャンダイザー』誌副編集長、『ダイヤモンド ホームセンター』誌編集長を経て、2008年、『チェーンストアエイジ』誌編集長就任。2015年、『ダイヤモンド・ドラッグストア』誌編集長(兼任)就任。2016年、編集局局長就任(現任)。現在に至る。
※2015年4月、『チェーンストアエイジ』誌は『ダイヤモンド・チェーンストア』誌に誌名を変更。

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