焦点:ホワイトカラーに「大退職時代」、コロナ明けで転職に追い風

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米シドニーの街を歩く人々
新型コロナウイルスのパンデミックによるストレスを抱えながら1年余りを過ごしたホワイトカラーの多くは、給与やさまざまな労働条件で思い通りの要求が出せる売り手市場がやってきたと気づいている。写真は2016年9月、シドニーで撮影(2021年 ロイター/Jason Reed)

[プラハ 19日 ロイター] – 昨年のロックダウン(都市封鎖)期間中、ずっと家にこもって1つの仕事を続けていたオランダ人IT技術者のベニト・カスティリオンさん(46)は今、キャリアアップのため転職先を探している。こうした変化は、彼に限らず世界中で何百万人ものホワイトカラー労働者の間に足元で広がっている現象だ。

プラハで暮らすカスティリオンさんはリンクトインのプロフィールを更新し、バーチャル形式の求人セミナーへの参加も開始。ロイターに「報酬が妥当で転職のチャンスがあるなら、喜んでリスクを引き受ける。企業は報酬を多少上積みすることに積極的で、目下大事なのはそこだ」と語った。

数十年に一度の大規模人材移動

ホワイトカラーがこのように考える世相について、米国のある経営学教授は「大退職時代(グレート・レジグネーション)」と名付けた。また人材サービス従事者の1人は、高度な技術を持つ労働者が自分のキャリアや生活の選択肢を再検討しており、数十年に1回の大規模な人材移動が起きているとみなす。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)によるストレスを抱えながら1年余りを過ごしたホワイトカラーの多くは、給与やさまざまな労働条件で思い通りの要求が出せる売り手市場がやってきたと気づいている。先進各国でワクチン普及とともに景気が急回復したため人手不足が発生し、企業がし烈な採用競争を展開しているからだ。

ドイツではIFO研究所の7月調査で企業の3分の1強が人手不足を訴えており、この比率は3年ぶりの高水準だった。

一方、ロックダウンで浮き彫りになったのは、リモートワーク中の従業員に対して十分な支援やモチベーションを与えなかった経営者が激しい逆風にさらされているという現実だ。マイクロソフト2021ワーク・トレンド・インデックスによると、世界全体の労働者のうち今年退職を考えていると答えたのは41%と、パンデミックの2年前に見られた転職希望者の割合の2倍近い。

ロレアルやネスレなどを顧客とする人材紹介企業グッドコールの欧州ビジネス・ディレクター、ブレーク・ウィットマン氏は「私は約20─30社と接触したが、いずれも内定者による辞退が急増していると口をそろえる」と述べた。内定者はコロナ禍でも「世界が崩壊しそうにない」と見切り、自信を持って他社を探すようになったという。同氏によると、こうした現象が急増したのは今年の第2・四半期だ。

米人材紹介ポータル、ジョブズ・ドット・コム共同創業者アラン・スチュワート氏は、「われわれが生きている時代で最大規模の人材移動」が労働者と企業の双方に多大な影響を及ぼす可能性があるとの見方を示した。

賃上げや福利厚生の拡充

欧州全域でITとデジタル分野の人材紹介を専門とするジョン・ヒル氏は、通常の18カ月分の規模の退職希望者が一気に市場に押し寄せていると驚く。「人々は活発に求人に応募し、(転職)機会を探っている。彼らはより直接的に行動することにずっと大胆になった」という。

経営者側も対応を急いでいる。世界的な人材サービス会社ランスタッドが先月発表した第2・四半期の売上高は前年比で少なくとも20%増加した。ライバルのアデコのクリストフ・カトワール社長もロイターに、米国の幾つかのセクターは5%を超える一時的な賃上げに踏み切り、欧州でも約3─5%の賃上げが行われたと話した。

人材サービス業界は、賃金引き上げが人材を引きつけるための最高の方法だという点で意見が一致している。同時に最近では、リモートと出社を組み合わせたハイブリッド勤務の柔軟性も大きな魅力になっている。

ウィットマン氏は「最も気が利いているのは、ほぼどこにでも『オフィス』があって通える制度だろう」と語り、一部企業が大都市郊外に展開するサテライトオフィスに言及した。「この方法なら、従業員は在宅勤務の必要はないが、貴重な時間を使って道路の渋滞にはまる必要もない」と評価する。

ドイツの電子商取引企業ザランドが8月第1週に全職場を閉める「一斉休暇」を実施した。これも従業員の労働環境向上につながる取り組みだ。広報担当者は「同僚たちからの最初の反応は非常に良い」と述べた。

アデコのカトワール氏によると、リモートワークの普及によって一部の企業は従業員に支給していた昼食券を、同じ金額の宅配利用券に交換している。さらに気候変動対策も従業員をつなぎとめる有効な手段で、以前提供していた社用車を社用自転車に切り替える動きも増えてきているという。

次のウイルス禍にも備え

ジョブズ・ドット・コムのスチュワート氏は、多くの労働者はリモートワークが可能な仕事だけを物色しており、在宅勤務の選択肢がない企業は従業員に逃げられるだろうと予想している。

現在起きている労働者と経営者の力関係の変化が、恒久化するかどうか判断するのは時期尚早のようだ。労働市場の需給ひっ迫は次第に和らぐだろうし、金融セクターなどの経営者は基本的にハイブリッド勤務導入に抵抗している。

それでもパンデミックがなお収束しない中で、賃金や労働環境、研修制度などの改善を長期的に約束しているセクターがある。それは多くの国で高齢化に伴ってサービス需要の増大が見込まれる医療だ。スチュワート氏によると、今の契約時に支給される一時金は最大1000ドルに上る。

カトワール氏は、医療セクターの経営者は「(労働条件を改善する以外に)選択肢がないと自覚している。人口動態が味方に付いているため、先行きも見通しやすい」と説明。「そして(疫病は)このウイルスで終わらないかもしれないことを、われわれは知っている」と語った。

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