買付け価格は割高ではない?徹底分析!島忠争奪戦でニトリHDがはじくソロバン

椎名則夫(アナリスト)
Pocket

ニトリHDは豊富な現預金を収益化、シナジー効果を描きやすい

東京・新宿に出店したニトリ

 次に、ニトリHDの視点に立とう。

 今回ニトリHDは2142億円で島忠の買収をすることになるが、ニトリHDは手元のネット現預金を充当すればすむ(2020年8月におけるネット現預金=現預金2330億円ー有利子負債130億円)。ゼロ金利のもとで利息を生まない現預金を、収益を挙げている島忠の事業資産に入れ替えることになり、それだけでニトリHDの株主にとってはプラスとなる案件である。

 次に、シナジー効果を試算する。

 島忠の家具・ホームファッション売上高を約400億円、その粗利率を43%とする(これは2017年8月期までIR開示資料から推察)。そこでこの売上高の70%がニトリ商品に置き換わり、ニトリの連結粗利率である56%をあてはめると、400億円 x 70% x(56%ー43%)=36億円の増益要因となる。つまり、DCM HDよりもニトリHDのほうが島忠の増益効果ポテンシャルが大きいことになる。

 ちなみに、島忠の2020年8月期の営業利益は95億円で、上記のニトリHDによるシナジー効果は営業利益を(販売管理費の変動を脇に置くとして)37%押しあげることになり、島忠の総資産経常利益率(ROA)も実績値である4.3%から5.9%程度へ改善するはずだ。

 ただし、ニトリHDの総資産経常利益率のハードルは従来7.5%である。島忠はホームセンター商品のウエイトが大きいため単純にこの数値を当てはめることには異論もあろうが、ニトリHD側はできる限りこのハードルを島忠にも求めていくのではないだろうか。ニトリHDは島忠の商品を最大限ニトリ商品に入れ替え、あらゆる費用を削減し、さらに島忠の家具とホームセンター商品をニトリ店舗への展開し、さらにこのホームセンター商品を順次ニトリHD得意の製造小売のプラットフォームに乗せて競争力を高めていくことは当然の流れになるだろう。

ニトリがホームセンター業界へ本格参入
温存される負債調達力

 改めてニトリHDの今回の発表資料を見てみると、本業である家具・インテリア商品から隣接するホームセンター商品などに商品のラインナップを拡充することに並々ならぬ意欲が示されている。従来筆者は、ニトリHDの成長戦略は、国内では家具・ホームファッションのオーガニック成長、米中への水平展開、アパレル本格参入にあると理解していた。それゆえ、本件は筆者の理解の浅さを露呈させられるものだった。

 ニトリHDのコアコンピタンスが製造から販売までを一気通貫して経営効率を追求する製造小売にある以上、製造小売化が進んでいない隣接事業領域に経営資源を投下するのは理にかなう気がしてくる。

 しかも、長年積み上がっていた現預金を一気に活用することになり、ニトリHDが資産効率に十分敏感であることを投資家に知らしめる効果もあった。

 さらに注目したいのがニトリHD+島忠の財務状況だ。本件後も2社いずれも現預金が有利子負債を上回るネット現預金(ネットキャッシュ)の財務ポジションであるため、負債調達力を温存できている。島忠の基盤でありニトリHDが十分なシナジーを提供できないホームセンター商品の領域で外部の経営資源をさらに取り込む必要性が感じられるだけに、次のM&A(合併・買収)をつい予想したくなる。それはホームセンターなのか、ドラッグストアなのか、100円ショップなのか、EC事業者になるのであろうか。

1 2 3 4

関連記事ランキング

関連キーワードの記事を探す

© 2024 by Diamond Retail Media

興味のあるジャンルや業態を選択いただければ
DCSオンライントップページにおすすめの記事が表示されます。

ジャンル
業態