買付け価格は割高ではない?徹底分析!島忠争奪戦でニトリHDがはじくソロバン
買付け価格、DCMがニトリに対抗しない理由
本稿執筆時点でDCM HDがニトリHDの買付価格に対抗措置をとる気配はない。筆者の見立てでは、DCM HDの負債調達余力に限界があり、DCM HD+島忠の組み合わせで生まれるシナジーに短期的に過大な期待は難しいからだと推察される。
まず、DCM HDの提案のもとで、DCM HD+島忠のネット有利子負債の金額を試算する。
DCM HDの2020年8月時点の貸借対照表によれば、現預金746億円に対して有利子負債(含むリース債務)はおよそ1497億円あり、差引き751億円のネット有利子負債を抱える。これに島忠買収資金1636億円を有利子負債で調達すると仮定し、さらに島忠のネット現預金等145億円(2020年8月時点)を勘案すると、DCM HD+島忠合算のネット有利子負債2242億円になる。これに対してDCM HD+島忠のEBITDA(税引き前、利払い前、減価償却前利益)を試算すると、DCM HDは2021年2月期会社予想が421億円、島忠が2021年8月期会社予想ベースで163億円、合算584億円と試算される。以上から、DCM HD+島忠単純合算のネット有利子負債はそのEBITDAの3.8倍(=2242/584)になる。
次に、DCM HDが買収価格をニトリHDの提示額まで引き上げたとしよう。このためには506億円の追加の資金調達が必要になる。これを有利子負債で賄うとすると、ネット有利子負債/EBITDA倍率=(2242+506)/584=4.7倍になる。この比率は昨今の金融情勢であれば上限に近い金額であり、仮にニトリHDが買収価格をさらに引き上げればDCM HDは追随するのが難しい(なお、ニトリHDは2142億円を用意する必要があるが、この金額はニトリのネット現預金の金額に相当するため、必要とあれば買付価格を引き上げる余力がある)。
では、シナジー効果を勘案したら負債調達力は変わるのか。当面鍵となるシナジーは、DCM HDのプライベートブランド(PB)を島忠に横展開することだと仮定し、やや大雑把な試算をしてみると次のようになる。島忠のホームセンター用品売上約1000億円(筆者推計)の20%程度をDCM HDのPBに置き換え(DCM HDの売上高に占めるPB比率が約22%と推察されるため)、この部分の粗利率が5〜10%ポイント改善するとする仮定すると、10〜20億円の利益増大効果となる(実際にシナジー効果はもう少し大きくなるべきだと思われるが)。シナジー発現でEBITDAを増やし負債余力を高める手法に限度があることがここから推察できる。DCM HDが買収価格の引き上げに慎重にならざるを得ないはずだ。
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