1年で株価2.3倍!三陽商会、24年度上期黒字化の意味と残された大きな課題とは
21世紀的な勝ち方をしているか、が最大の課題
リベンジ消費も、「倍返し」が終わればあとは落ち着く。本質的に「不要なものは買わない。買った衣料品は長く着る」という方向に世界は向かっているからだ。したがって沈静化し、市況は元に戻る。
その時に、「21世紀的勝ち方」をしている、中華企業のデジタルモンスターであるShein(シーイン)や、今後脅威となる韓国「K-fashion」とガチ勝負をやって勝てるだろうかということなのだ。今、私を含め、コンサルのところには欧米からの日本進出や日本企業のM&Aの仕事が舞い込んでいる。彼らは、円安効果もあって積極的な日本市場でのブランド買いに商機を見いだすと同時に、日本人独特の以心伝心やイロジカル(不合理)な行動・意思決定にコンサルを使い出した。バブル前夜で世界から閉鎖国家と言われてきた時と状況が酷似しているのだ。すでに、マッシュスタイルホールディングス、マークスタイラー、バロックジャパンなど有力アパレルは外資ファンドの傘下に入ったし、オンワード樫山とサンマリノ、良品計画と三菱商事ファッションの垂直統合など、商社機能の取り込みなど、日本アパレルの動きも活発である。
だから、私のような「一歩引いた立場」で産業構造を見れば、勝ち負けより「勝ち方」や「負け方」の方が気になる。今、神風が吹いているうちに未来型ビジョンを生み出し、適切なデジタル投資や自社ECの強化、サプライチェーンの合従連衡(デジタルSPA)や、Tokyo showroom city戦略(東南アジア)などに投資すべきなのである。
成長戦略が見えない三陽商会
このように、三陽商会が黒字化したことは良いことで、「A当たり前のことを、B馬鹿にせず、Cちゃんとやる」というターンアラウンドABCを徹底したことは称賛すべきだ。
一方で、「一昔前の百貨店アパレルのコストプロポーションにもどっただけ」という見方も可能だ。本来、ターンアラウンドとは、Shrink to GrowthのGrowthビジョンを見せ、出島組織をつくったりM&Aで足りない機能を保管したりしながら業態転換をしてゆく。ロジスティクスや調達などは競合アパレルと組み、重複機能を埋め、稼働率を高めて流通をデジタル化することで効率をあげる。販管費の売比は3-40%台にし、絶対50%を超えないようにする。利益率を高め、そのキャッシュを商品価値に付与して付加価値で差別化すべきなのだ。私は三陽商会こそ、Tokyo Showroom city戦略を推進すべきだと思う。
もともと三陽商会は職人気質な文化がありクイックレスポンスなどオペレーション効率を上げるのは苦手だった。また、百貨店はこれからジワジワと館の数が減り、適正数に近づいてゆくだろう。数値偏重主義に陥りブランド価値を悪化させているように見える西の大手アパレルのようにならないでいただきたい。アパレル・ビジネスのもっとも本質的競争力の源泉である「企画力」を高めるための組織改革、人事制度を進めることで、英国の反対を押し切ってバーバリーブルーレーベルを立ち上げた同社の底力が見たい。
このレベルまでシュリンク・フェーズを持ってきたことは称賛に値するし、当時内部は相当混乱していたと思うので、外野の意見といわれても仕方ないが、ぜひここは若い人材をトップに近いポジションにし「21世紀的勝ち方」に打って出てほしい。
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プロフィール
株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。
著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「
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