百貨店アパレルの成長戦略!三陽商会VSオンワードHD 両社黒字化を徹底分析!

河合 拓 (代表)
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三陽商会の再建に疑問

 さて、私が冒頭でキャッシュフローの話をしたのは理由がある。それは、現金の入り / ポジティブ・キャッシュフロー、現金の出 / ネガティブキャッシュフローについて詳しく解説をし、企業・事業の再生というのは正常収益状態(通常の状態での運転資本)を横引きし、ポジティブかネガティブかで、その再生が本物かどうかを判断するからだ。簡単に言えば、売上が減少傾向であれば、どれほど黒字でも、フリーキャッシュフロー(企業の貯金と思えば良い)が減っていく。やがて赤字になり、さらに売上が減り続ければいずれ倒産する

 ここで、両社の売上を見てみる。20年度がコロナ禍という特殊状況があり非常に分析がしにくいので、本来は5年の正常経営環境下でのCAGR (年度平均成長率)でみるのだが、ここは2社の比較ということで経営環境はほぼ同じであるため、1年分のデータで分析をすすめてゆく。まず、下の図を見ていただきたい。

図表5成長率
図表5成長率

 計画差というのは企業分析にとって何の意味も無いことを知っておいていただきたい。なぜなら、事業計画というのは、「鉛筆を舐めながら」書いているからだ。だから分析は、必ずファクトベース(実績と論理的に導かれる数値)と、その傾向以外は信じてはいけない(よほど突拍子もないような大改革があれば別である)。それでは「計画」というのは我々にとってどんな意味があるのかといえば、それは株主との約束である。つまり、株価期待値の努力バーであるというレベルでとどめておけば良い。

 さて、ここでみると、三陽商会の売上の伸張率が大きく、一見、三陽商会の「がんばり」を感じるが、ここにマジックがある。例えば百貨店業界が出している2023年度3月 全国百貨店売上高概況と比較し、百貨店の直近売上は13ヶ月連続プラスで、ならすと9.8%のプラスということである。

 この場合、正しい分析というのは、百貨店依存度の高い三陽商会に9.8%の「下駄」を履いているとみて、同社の力の分析は「下駄」を脱いでもらうことなのだ。そうなると22年度三陽商会の売上伸張率 x 0.8 + (チャネルシェア 9.8%がスタートライン)」だ。上りエスカレータに立っているようなもので、百貨店に来るお客様の「流れ弾」に当たっているともいえる。

 ここから自力での成長率は、両社ともに2%程度ということになりそうだ。

 両社の財務諸表から見る分析

 さて、まとめよう。まず、三陽商会についていえば:

  • 黒字化に成功したものの30年も変わっていないビジネスモデルの改善を積み重ねているに止まり、抜本的な改革はまだ見えない。つまり、コロナ明けリベンジ消費、およびインバウンド需要による、百貨店のジャンプアップに乗せて一緒にジャンプをしただけに見える。もし百貨店が苦境に陥ればその道連れとなるため、リスク分散がなされていない

 これに対して、オンワードHDは:

  • 「デジタル流通企業」という明確なコンセプトを打ち出した。PLMを使って仕入先の数多くを巻き込んだプラットフォーマーとなり、バリューチェーン全体に「全体最適」の重要性を説いて回ったと聞く。

  オンワードHDの改革は、僭越ながら私の「ブランドで競争する技術」に書いてあるセオリーそのもので、サステナブル(持続可能な)事業モデルを構築できたようにも見える。これは、ひとえに巨艦タイタニックを見事に旋回した保元道元社長の手腕であり、情報システム部の田中部長の力もあったといえるだろう。

 私は、現在大学院に通い経営学を学び直して(リスキリング)いるが、ハーバードビジネススクールMBAのケースに新しいページが加えられるとよいなと思う。また、三陽商会は、私が大江伸治社長の前任である杉浦昌彦前社長と二人三脚で大胆なビジネスモデル改革を進めてきた企業だ。バーバリー問題がこれほど大きくならなければ、百貨店のデジタル決済は大きく変わり、三陽商会の一人勝ちは約束されたようなものだったように思う。それほど、内容がすばらしい戦略を役員みんなで作ったし、作る力もあった。

  以上が私の分析だ。「三陽商会 vs オンワードホールディングス」、あなたは、どのように見ましたか?

 なお、本分析は100%私の視点であり投資などの企業価値算定に使うものとはレベルが違い、簡易的なものであることをおことわりしておく。投資はあくまでも自己責任でお願いしたい。 

5月31日、アパレル業界とDXというテーマで3回連続の講演を行い、アパレル産業に襲いかかる4つの力、そして、その力とどのように対峙してゆくべきかを全くノーコマーシャルベースで皆さんと討議を行う予定だ。本主旨に賛同してくれた韓国財閥企業も第3回に登壇し、第2回には、あのPKSHA Technologyの元役員が登壇してくれ、私たちと徹底討論する。第1回目は、私が世の中の変化を読み解くキーワードをお見せする。https://www.holon.ne.jp/seminar/20230531_webinar.html

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

 

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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