カインズのプロショップ「C’z PRO」、会員制による顧客接点とデジタル融合で差別化を図る

ダイヤモンド・ホームセンター編集部
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顧客との接点の密度の濃さ

C' s P R Oの刷毛や養生用品などは、PBを取り扱う売場
C’ s P R Oでのカインズのプライベートブランド(PB)はHC業態に比べて少ないが、刷毛や養生用品などは、PBを取り扱う

 MDの精度を高めるだけではない。従業員のレベルアップにも力を入れている。商品名を聞かれて、わからないこともあったという。「電話での問い合わせの場合は、売場で実物を見ながら検証できません。そうした対応にもきちんとお客さまに応えなければなりません」(久保氏)

 商品マニュアルに準じるテキストをオリジナルで作成し、それをOJTで使用しながら、テキストの精度も高めていった。従業員の知識やノウハウの蓄積がMDにも生かされ、C’z PRO事業の売上向上につながる。それを可能にするもう1つの要因が、会員との接点の密度の濃さだ。会員制であるということは、リピート来店率が高く、プロのお客と従業員が顔なじみになることもあり、教えをいただき、それを品揃えにつなげ、一緒に売場をつくり上げると言ってもよいだろうか。

 会員との距離の近さを物語るシーンを、久保氏は今年の正月に出合えたという。「1月2日のことでした。この日はさすがに現場も動いていないし、お客さまも多くないだろうと思っていたのですが、わざわざこの日に粗品を持ってあいさつに来られたお客さまがいたのです。こんな光景はHCでは絶対に見ることはできません」。

 また、店内または敷地内に会員専用スペース「クリエイティブ・スペース」を用意した。クリエイティブ・スペースには、「カタログスペース」や、商談に使える「商談スペース」のほか、「休憩スペース」などを用意している。会員同士の交流の場としても活用して、C’z PROを、自分の事務所、拠点のように自由に使ってもらいたいという意図が込められている。

C'z PRO品川シーサイド店の敷地内に別棟で設けた会員専用スペース「クリエイティブ・スペース」
敷地内に別棟で設けた、会員専用スペース「クリエイティブ・スペース」の室内。談話スペースのほか、カタログ(写真右)や、フリードリンク(写真奥)などが用意されている

会員専用アプリで顧客接点を増やす

 会員との距離が近いのは、店頭での接点だけではない。それは、カインズが得意とするデジタル戦略との融合で、顧客接点を増やしていることだ。C’z PROでは、会員専用アプリを開発し、それにより新たな顧客体験を実現しようとしている。

C'z PRO品川シーサイド店の冬物売場
冬はウオームベスト、夏は空調服が売れ筋。作業現場や会社単位でまとめ買いをしていくケースもあるという

 アプリを使ってできることは大きく2つある。1つは、商品の注文だ。アプリで事前に商品を発注すると、当日もしくは翌日に店頭でその商品を受け取ることができる。店外に設置しているピックアップロッカーで受け取ることも可能で、これは24時間対応している。閉店後に、仕事終わりの遅い時間に受け取ることもできる。さらに、現場への当日配達にも対応している。

 もう1つは、クラフトバンク社が提供する「お仕事・人材紹介」のコミュニティサービスを搭載していることだ。同サービスには2万3000社超が登録しており、たとえば、「明日、○○の現場で2人足りていないので、来られませんか」といった仕事の相談が可能だ。

 アプリからは、C’z PROのキャンペーン情報や店舗情報も見ることができる。現在、ツーウエーのコミュニケーションが可能なSNSは、各店舗がオリジナルで設けているLINEサービスがある。今後は、会員専用アプリにもSNSもアップしていくことを考えているという。

 リアル店舗とデジタルを融合したサービスはプロショップ業界では実質初だ。C’z PROはリアル店舗のみのサービスでは実現できなかった、職人の商品調達の幅を革命的に広げたことになる。

首都圏で30店舗目標

C'z PRO品川シーサイド店の作業靴売場
作業靴は、最近は機能性に加えてデザイン性が求められるようになっている

 「22年3月に3店舗体制になって、売上の立ち上がりと会員数の増加スピードが格段に上がりました」と久保氏は言う。カインズがプロショップを立ち上げたという認知度のアップと、3店舗による相乗効果もあるのではないかと分析する。

 カインズとして会員数を公表していないが、3店舗の合計で「数万単位になっている」という。客単価は店舗によってやや異なるが、平均すると6000円前後になるという。

 来店時間帯も、東名横浜店のオープン当初は夕方に集中したが、3店舗体制になってからは、朝、昼、夕方の3つの山ができるようになった。

 当面の出店目標は、首都圏で30店舗だ。C’z PROはプロショップにデジタルを融合した新たな風をもたらした。CPROの提供する新たな購買体験が、プロ市場の潮流になるだろう。

C’z PRO 品川シーサイド店  店舗概要

所在地 東京都品川区東品川3-32-16
電話番号 03-6260-1888
営業時間 平日6:30~21:00 土祝6:30~18:00 日9:00~18:00
売場面積 1163㎡ ※外売場を含む
敷地面積 2413㎡
駐車台数 24台
従業員数 28名(正社員4名、専任社員4名、パート・アルバイト社員20名)

 

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