今なお世界有数の技術を持つ日本 それを破壊する小売業の構造問題とは

河合 拓
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事業の定義は「商品」 × 「顧客」のかけあわせ

 ビジネススクールで習う「いろはのい」とは、事業の定義である事業とは、「商品」×「顧客」の組み合わせのことだ。平たく言えば、「誰に何を売るか」ということなのだが、驚くことに、このような基礎的なことさえ理解していない人が多い。聞けば、その人は有名なビジネススクールを出たというのだから、現場に出ない「座学」に疑問を感じるときがある。

  こうした基礎が分かっていれば当然、「商品」側が絶対単品ならば、「顧客」側も絶対個人(=「個」客)という、“つりあい”を考える。特に今後EC化率が高まれば、企業にはビッグデータがあり、その中には絶対個人の情報が山のようにある。ましてや今はECと同じように、店舗内でもカメラ設置によるファネル分析(入店からお買い物に至る一連のプロセスの分析。ECでは常識)が可能だ。つまり、私が「マーケティングという概念が消え、デジタル・マーケティングの終着駅は絶対単品と絶対個人の掛け合わせである」という発想は、ここからでてくるわけだ。

  しかし、実際はどうか?

  マーチャンダイジングを教えている先生の中には30年前の教科書を未だに使い、某神戸の名門アパレルでさえ使わなくなった隠語である「たこやき」(たこやきの鋳型に商品を入れ込むがごとく、体系化されたMD計画の仕組みである)などという言葉を自慢げに生徒に教えている人もいると聞く。

  昔の教科書では、マーチャンダイジングとは、ざっくりとした商品調達計画をつくることだ。そこには「個客」という概念どころか「顧客」という概念さえ存在しない。当然、絶対単品など無きに等しく、過去の商品動向分析も「人間が管理できるレベルの大括りな業務」を今でもやっているわけだから、数万というSKUは絶対単品とはほど遠い。計画がこのレベルだから「絶対単品管理を可能にする技術」を導入することなど不可能だろうし、発想もない。だから、RFIDという神の領域に近づける技術も、所詮は棚卸しにしか使えない。

  私が、講演でこうした話をしたとき、びっくりするような反論を投げてくる人が後を絶たない。曰く、「顧客を中心にマーチャンダイジングを組めば、アパレルブランドが同質化するではないか」という反論だ。 

  この人の頭の中には、ボタンを押せば、自動的にシステムがマーチャンダイジング計画をすべて組み立ててくれるという暗黙的常識がある。論理的な人なら、「ならば、顧客が何を買っているのかという動向を可視化しなければ、差別化されるのか」と聞くだろうが、そうしたディベート能力もない。

 1)世の中で流行っているものが分かっていて、それをもとに自分たちで判断するのと、
2)何が流行っているのか「大御所」と呼ばれる「先生」の感覚に頼るのと、
どちらが合理的かという問いを投げているだけなのだ。

  デジタル技術を使えば、顧客の動き、世の中の動きが客観的に可視化される。その可視化された客観情報を使って、煮るなり焼くなり好きなようにすればよいのだ。場合によっては、世の中と逆の方向にあえての戦略としてブランドの方向性を振り切ることだって可能だ。それこそブランド戦略なのである。

 

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