ZARAが実践、知らぬは日本企業だけ…アパレルの新常識「リードタイムは長くて良い」

河合 拓
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リードタイムは長くて良い

 ではなぜ「リードタイム短縮化」について、誰も疑問を持たないようになったのか。それは、アパレル業界の悲しい論理力のなさに原因がある。

 「リードタイム」とは「商品生産のリードタイム」である。そして、その意味は二つある。

1)ファイナンス観点の商品リードタイム(商品回転率=交差比率)
2)トレンド回転のための商品リードタイム(MD計画=QR)

 アパレル業界は、この2つを激しく混同し、違いさえ意識していない。彼らと話をしていると、時にファイナンスの話がでてきて、都合が悪くなればトレンドの話に変わる。ここに悲劇が生まれるわけだ。

 1)に関しては、他の書籍や解説書に載っているので詳しい解説は避けるが、商品回転率 x 商品粗利率(限界利益率)で交差比率という指標を出す。ファイナンス的にいえば、この交差比率が高ければ、少ないお金で利益を増幅させ、大きな売上を作ることができる。利益率が高い商品がどんどん売れて回転すれば、それだけ企業はキャッシュリッチになり、さらに大きな仕入に回し、売上を(理論上)稼ぐことができる。いわゆるキャッシュフローが良化するわけだ。

 問題は2)である。ここには、ファイナンス視点とは全く違う。ここでは、まずテストマーケティングで総投入量の3-40%を投入。初速を測定し、売れ筋を追加し死に筋の生産を止めれば欠品と余剰在庫の両方が最小化されるという無邪気な発想があった。いわゆるQR である。しかし、このQR手法は、拙著「生き残るアパレル死ぬアパレル」(ダイヤモンド社)で解説したように、ZARAの「蟻地獄」にはまることになり、「トレンド回転率」が素早いZARAには太刀打ちできないことは述べたとおりだ。

 2016年、ユナイテッドアローズが、当時、1年を4つのシーズンに分けていたアパレル業界で、1シーズンを、梅春、晩夏、などと半分にし「8カセットMD」で大成功したが、これとて、無敵の王者ZARAの前で、さらに細分化する12カセットMDでなければ勝てないということになり日本中がZARA MDを研究しはじめた時期であった。

図表 QRとZARAMDの手法の違い(出典:筆者作成)
図表 QRとZARAMDの手法の違い(出典:筆者作成)

 ここでの論点は、商品回転率とトレンド回転率は別物であるということだ。を見て頂きたい。上が伝統的なQRをモデル化したものである。ここには、消費者から見て変わりゆく「トレンド・ターンオーバー」と下段の「プロダクト・ターンオーバー」(商品回転率)が同じであるという無邪気な発想がある。もっと分かりやすくいおう。売れ筋を見て、同一商品を一から作り直さなければ、トレンドに乗れないという非論理的な発想があるわけだ

 これに対して、下段はZARAが採用している手法だ。彼らは、最初から素材を備蓄し、シーズン毎に売り切り御免で追加生産をせず、「ヒットの要因」を分析し、あらかじめ用意した素材を活用して年に12回転のトレンドを見せている。ここでわかるように、トレンド回転と商品回転を分けてとらえ、毎月のシーズン初頭に投入すれば、リードタイムを3ヶ月にしようが4ヶ月にしようが商品投入できることになる。別に全く同一素材でなくとも、「ヒットの要因」が分かれば、素材はあらかじめ備蓄したものを使い料理の仕方を都度変えれば良いわけだ。消費者の立場になって見れば直ぐにわかる。全く同じ商品でなくとも、「イケてる雰囲気」があれば消費は発生する。だから、私はアイテム毎の欠品率をKPIにしてはならない。客単価をKPIにせよ、と幾度も説いているわけだ。

 

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