ZARAが実践、知らぬは日本企業だけ…アパレルの新常識「リードタイムは長くて良い」

河合 拓
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日本流QRの実態は、ドタバタ騒ぎで作られたもの

 そもそも、差別化できていない商社自身が本質的には悪いのだが、そんなことは考える暇も無い。商社は、「えいや!」とばかりに大ばくちに出、似寄り素材をアパレルに送り、本生産を確認無しで開始する。

 「もうこれしかありません」とスワッチ(素材の編み地サンプル)を送るが、アパレルは「色欠け、サイズ欠けが発生するからもう一色足せ」と、さらにムリを押しつける。納期遅れは絶対に許さない。下手をしたら莫大な損害賠償金の請求が来る。商社の人間は、中国に飛び、現地で公司(中国の会社をこのように呼ぶ)の総経理(日本で言う社長)に直談判し、夜は酒を飲んでお願いすることになるわけだ。

 総経理は、「しかたないな」と、他のアパレルの仕事をどかし、夜の二交代制に変え、なんとか染色を2日で仕上げ編みたてを開始する。こうして上がったドタバタ騒ぎの結果、量産される商品はどことも分からない外注先を使うが仕方ない。トレーサビリティなんてあったものではない。上がる商品も、安定性も品質も担保されない。そうして上がった商品をship by Air (飛行機で飛ばす) で緊急通関させる。飛行機が間に合わないときは、ファーストクラスの席を確保し、パッキン(Packing 量産品が入った箱)をハンドキャリー(一般品と同じ荷物にすること)させて成田で通関させて、タクシーで深夜に納品する。全くバカげた話だがすべて事実だ。

 しかし、仕事はこれだけでは終わらない。不安定な品質のドタバタ騒ぎで生産された商品を、商社は日本の検品工場でプレスを使い一生懸命アイロンで伸ばし、また、近所のアルバイトの人をかき集め徹夜でほつれを直して納品する。これが、リードタイム短縮化の実態だ。

 さて、本日の論点は、このドタバタ騒ぎはデジタルでは何も解決しない、ということだ。なぜなら、このドタバタ騒ぎは、インターナルマター(会社内の効率化)でなく、エクスターナルマター(外で起きている仕事)だからである。「素材メーカーが在庫をアップデートしていれば、デジタルで簡単に素材が見つかる」など批判する人がいたら、「アパレル企業のハンガーラックにある商品と同じ素材をデータベースから見つけ、在庫の有無を確認して見ろ」と私は言いたい。また、万一、似寄りの素材を見つけ、データベースに「在庫あり」と書かれていたとしよう。紡績メーカーに確認したら、「ああ、今し方すべて完売です」と“そば屋の出前”で対応されるだけだ。

 机上の空論を振りかざす前に、実務をやってみることだ。リードタイムの最大のボトルネックは素材なのだ。似寄りの素材、しかも、混紡糸、撚糸の世界になれば、アクリルかレーヨンかなど専門家でも見分けはつかない。また、人気の素材など直ぐになくなるし、そもそも素材メーカは在庫など持つ体力は無い。だから、ZARAは素材をあらかじめ備蓄し計画生産をしているのである。それに引き換え日本のQR(クイックレスポンス)はの、「おっと、これが流行った、速攻でつくれ!」と、素材の有無や工場スペース、品質管理の生産三種の神器をすっ飛ばし、「三週間で作れ」という無知っぷりである。加えて、商社は、「はい、はい、かしこまりました」とムリを承知で商売をとろうとする。

 これが、リードタイム短縮化の実態である。

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