ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇
アパレル産業の死期が迫っている。驚くべきは、現場の人間と話をしても「もうかりまっか?」と聞いても、未だに「ぼちぼちでんな」と悠長な返事が得ってくる。それでは、「比較的好調なんですか」と聞き返せば、「まあまあです」と答える。この台詞、どこかで聞いたことがないか。まさにMBAの教科書に載っている「茹でカエル」である。会社にいる人間は、自社の中しか見えないことが多く、世の中を俯瞰してみていない。今日は、日本のアパレル産業の実態について、15人の現場の人間からインタビューをとりまとめた現場に働く方達の客観的世界観を語りたい。
原料高により商社OEMは限界

米国の利上げによって、世界のマネーは米国に向かう一方、相対的に低金利政策を継続している日本の金利は世界で類を見ないほど低くなってきた。この結果、為替は150円(TTB 銀行が外国為替を買うレート)で、来月ハワイに新婚旅行に出かける我が娘が、「おにぎりが1500円!」と叫んでいた。私はマクロ経済学者ではないので、本件に関してのこれ以上の深掘りはやめるが、MMT (現代貨幣理論)論者は、
「今こそ国に産業を戻せば良いではないか。そうすれば雇用も増える」と簡単にうそぶいているのをを聞くと、10年間、海外貿易実務をやってきた私からすれば、「この人は大丈夫か?」となる。それができないから、海外の安い労働力を求めて商社が世界を徘徊し、また、世界最適調達を行うから、国のGDPが上がり途上国が先進国に変わっていくのだ。当たり前だが、芋虫が蝶々になれば、再び、芋虫にもどることはできない。そんなことは、賃金的にも、労働の質的にも東南アジアやバングラデッシュにアウトソーシングしている繊維産業を、東京で働いている丸の内OLがやれるはずがないことなど、日の目を見るより明らかだ。
また、単なる「PL価格比較」しかできない人間が生産部で、アパレル製品の生産産地を決める直貿が拡大したため、
商社の給与水準は高い。サプライチェーンはスマイルカーブ(サプライチェーンは、両脇がつり上がり笑った絵になる)の逆、怒りカーブ(付加価値がない商社の給与が一番高く、工場と小売という最も重要な拠点が下がっている私の造語)になっている。
問題は、こういう話は数十年前から言われてきたなかで、「それでも、生き残っている」とみるか、「もう、ここまできたか」と見るかで見方が180度変わってくる点だ。
この分岐点がみえないのは、まさに「茹でカエル」状態だからだ。
しかし、今は日本企業より給与が高くなった中国企業が日本に出店(でみせ)を作り、従来商社がやっていた書類業務を代行し、「輸出国指定倉庫渡し」を加速させているのは伝えたとおり。現在は、従来商社が「常駐ビジネス」といって、アパレルの生産部に入り込んでいたが、「電話交換」しかしていない商社を飛ばし、日本語のできる中国人がアパレルに常駐している。私が口を酸っぱくして商社にOEMから撤退せよといっても未だにOEMしかやっておらず、本社は「あいつらは」と苦笑いしている状況だ。結果、発注がフラグメント化して為替や金利とは関係なく「段取り替え」が発生するため原価高に陥ることになっているのが実態なのだ。
勘違いしてほしくないのは、私は煽っているのではない。私がインタビューした人間は口を揃えて「もはや経営者を外部からつれてきて、従来とはまったくことなるゲームをしなければ悲惨な目にあう」と言っているのに、当の本人達の耳に入っていないのだから始末が悪い。
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