#5 ユニー“中興の祖” 家田美智雄さん、「躓きのアピタ」を立て直す

千田 直哉 (編集局 局長)
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「もう金輪際、『アピタ』はやらない」・・・

「官僚主義はホントに怖い」。ユニーを蝕んできたものの正体を暴くとともに、家田さんは官僚主義への憎しみを新たにした。

 そんな実情を直視して、社内に向けて宣言した。

「もう金輪際、『アピタ』はやらないぞ!」。 

 ところが、「やらない」ことを明言しているのに、家田さんの顔を見るたびに、ニコニコとすり寄ってきては、「『アピタ』は評判がいいんですよ」と繰り返す社員がいた。

「何を言ってるんだ!」と腹立たしく感じる一方で、「ほんまかいな? もう少し話を聞いてみたい」という衝動もあった。

 そこで、取引先や従業員に聞いてみれば、なるほど、この社員が主張するように「アピタ」は、内部からも外部からも確かに評判がいい。

 よく考えてみれば、それもそのはず。「アピタ」には必要以上のカネがつぎ込まれていたからだ。

 華美な什器や造作は、ユニーの収益にとってはマイナスだが、テナントや取引先からは評価され、百貨店ブランドを導入することだってできた。それらは「アピタ」の集客エンジンになっていた。

 突き詰めてみれば、ダメなのは採算が合わないことの1点だけだ。

「ということは、収支モデルを変えればなんとかなるのでは…」。家田さんの心はぐらりと傾いた。

「アピタ」をやらないと断言したもうひとつの理由は、着任直後に案内された、売場面積11025㎡の大型店舗であるアピタ港店(愛知県)の容姿にあった。

 イタリアの建築家アルド・ロッシが宮殿をモチーフにデザインしたという触れ込みで注目されていたが、その外装と言えば、赤、青、黄色の原色3色でべったりと塗られており、見方によっては品のないラブホテルのようだった。

  それを自信満々に説明された。家田さんは、仕方なくうなずいてはいたけれども、内心では「ダメだこりゃ」と嘲【あざけ】っていた。

 すぐに塗り直したかったが、時すでに遅しで、外装はそのままにせざるをえなかった。まだ変更が可能だった内装については、ムダとみられるところを削り、コストカットした。だが、締めてみれば総投資額は70億円――。家田さんは「これがユニーの墓標になってしまうのだろうな」と暗い気分になった。

 

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記事執筆者

千田 直哉 / 株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア 編集局 局長

東京都生まれ。1992年ダイヤモンド・フリードマン社(現:ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。『チェーンストアエイジ』誌編集記者、『ゼネラルマーチャンダイザー』誌副編集長、『ダイヤモンド ホームセンター』誌編集長を経て、2008年、『チェーンストアエイジ』誌編集長就任。2015年、『ダイヤモンド・ドラッグストア』誌編集長(兼任)就任。2016年、編集局局長就任(現任)。現在に至る。
※2015年4月、『チェーンストアエイジ』誌は『ダイヤモンド・チェーンストア』誌に誌名を変更。

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