焦点:コロナで視界不良の地方路線、「雪国空港」に重い試練

ロイター
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東京都の羽田空港
秋田市から北東へ60キロ、北秋田市にある大館能代空港は10月になっても利用者の回復が鈍い。写真は東京都の羽田空港で23日撮影(2020年 ロイター/Issei Kato)

[東京 30日 ロイター] – 秋田市から北東へ60キロ、北秋田市にある大館能代空港は10月になっても利用者の回復が鈍い。新型コロナウイルスの感染拡大で大幅に減った旅客需要は、政府の観光支援策で全国的にはいくぶん戻りつつあるが、ここは今も利用者が前年の7─8割減と厳しい状況が続いている。

唯一乗り入れる全日本空輸(全日空)は4月から減便、今期業績が過去最大の最終赤字に陥る見通しの親会社ANAホールディングスは、拠点とネットワークを見直す方針を打ち出している。滑走路の除雪費用かさむ冬を控え、大館能代空港関係者の間では、1日1往復に減った羽田便のこの先の利用者動向、ANAの今後の便数計画、さらに空港自体の維持について不安の声が聞かれる。

「路線の見直し自体はANAが決定することだが、空港自体の維持費の問題もある」と、地元をよく知る秋田県選出の自民党議員は言う。「路線見直しの俎上(そじょう)に上がる可能性はある」と、同議員は懸念する。

大館能代空港は、菅義偉首相が生まれ育った秋田県に2カ所ある空港の1つだ。国が設置し、自治体が管理する国内・国際主要路線をカバーする秋田空港と異なり、設置も運営も自治体が手掛ける地元の生活路線と位置づけられている。

日本国内にはこうした地方管理空港が59ある。利用者が激減し、先行きが見通せない大館能代空港は、新型コロナ禍に苦しむ地方空港、とりわけ自治体が設置・運営する地方管理空港の縮図と言える。日本経済が成長する中で全国津々浦々に張り巡らされ、人口が減る中でも維持されている航空ネットワークは、未曽有の感染症による需要減少でその存在意義が問い直されている。

世界遺産巡りなど観光客増から一転

大館能代空港の建設計画が動き出したのは、バブル経済真っ只中の1987年。94年に着工し、日本が金融危機に見舞われていた1998年に供用を開始した。当初は東京・羽田、大阪・伊丹、札幌・新千歳の各空港と結ばれていたが、利用客は低迷し、全日空の羽田路線だけが残った。

世界遺産の白神山地に近いほか、秋田犬をアピールするなどし、昨年までは西日本から羽田経由で訪れる観光客が増え、空港の利用者は6年連続で伸びていた。本来なら今年10月から1日3往復に増便される計画もあったが、コロナ禍で状況は一変した。

4月半ば以降は1日2往復から1往復に減便。9月の利用者は2900人と、前年同月比から81%減少した。東京がGoToトラベルの対象となった10月も、24日までの実績値で同75%減と回復は鈍い。

大館能代空港ターミナルビル運営会社の幹部は、「現在の沈滞した需要では、わずか1日1往復の運航でもやむを得ないが、このままの状況が続けば、テナントを含む経営へのインパクトはさらに大きくなる。今後の運航便数の見通しにはとても大きな関心を持っている」と話す。

ANAは27日発表した事業構造改革で、航空事業の規模を一時的に縮小する方針を明らかにした。大館能代空港の地元関係者は、路線の行方に気をもんでいる。

ANA広報はロイターの取材に対し、「個別の路線については今後検討し、来年度の事業計画は1月末をめどに公表する予定」と回答。「高需要路線を中心にネットワークを維持し、機材の小型化により生産量を適正化していく。需要が戻れば、本来の便数に戻していきたい」としている

同じ県内の秋田空港も新型コロナの影響で利用者が減り、9月は前年比8割減少した。しかし、拠点空港の秋田空港はもともと規模が大きく、国土交通省のデータによると、2019年の利用者は92空港中25位の137万人。一方、大館能代は60位の16万人だった。前出の秋田選出の自民党議員は「大館空港は県北部の地元関係者のたっての希望で造られた」と説明する。「場所的に中途半端な面があり、空港の状況は非常に厳しい」と話す。

石川の能登空港も

大館能代のような地方管理空港は、地元の要望を受けて建設されたケースが多い。国や企業などが管理する拠点空港以外に、自治体が運営する地方管理空港、自衛隊との共用空港など、日本国内にはおよそ100の空港がある。各都道府県に2つ以上ある計算だ。

17年前に地方管理空港として開港した石川県の能登空港も、需要の回復が見通せない。拠点空港の小松空港と同じ県内に併存するこの空港は、10月の利用者数が前年同月比約7割減だった。就航する全日空の羽田便の年間平均搭乗率が58%を下回ると、県が補助する仕組みを導入しているが、昨年7月から1年間はこの適用を見送った。1日2往復を1往復に減らしている上、あまりに搭乗率が低いためだ。07年に能登半島地震が起きたときを除き、初めてだという。

自民党航空族の一人は「国全体としての交通体系のグランドデザインというものが必要でありながら、全く存在してこなかった」と指摘する。その上で、「赤字路線は廃止するというのが交通政策の基本だ。最後はANAの経営判断になる」と語る。一方、航空行政を所管する国土交通省は、社会インフラを守る観点から、地方路線を拙速に見直すことに慎重だ。「採算とインフラとしての機能の両面から検討する必要があり、路線の経営状況だけで見直しの対象とすることはない」(航空局)としている。

冬を控え、秋田県庁の担当者は頭を抱えている。新型コロナの影響で県の歳入が大きく減少する中、まもなく滑走路を除雪する季節がやって来る。費用は大館能代だけで1億円、秋田空港も合わせると4億円にのぼる。暖冬を祈るしかない状況だ。

地方空港の実情に詳しい国会議員は、「人口減少社会の中で人の流れを作り出す意味もあり、赤字であっても地方航空ネットワーを無理にでも維持してきた面があった」と話す。「しかし、コロナ禍がその維持存続についての問題提起のきっかけとなった。交通ネットワークとして維持していくには総合的な判断が必要だ」と語る。

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