シップスがライブコマース内製化の先に見据えるPRの新しい形

2021/06/07 05:53
    野澤正毅
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    日本の流通業界でも、コロナ禍が大きな契機となって、動画のライブ配信によるリモート実演販売ともいえる「ライブコマース」が急拡大している。ライブコマースで、早くも成果を上げつつある小売業も出現しており、ファッション専門店のシップス(東京都/三浦義哲CEO)もそうした企業の一つだ。同社のライブコマースは内製を基本としており、コストダウンを実現するとともに、コンテンツ制作のノウハウを蓄積する。社内の手作りコンテンツによって他店にない独自情報を発信し、ワンツーワンのデジタルマーケティングで差別化を図る狙いもある。

    通常オンラインショップの約7倍の購入率

    ライブコマーストップ
    ライブコマースのトップ画面

     ライブコマースは、オンラインショップとライブ動画を組み合わせた販売形態で、お勧めアイテムを紹介したり、実際にコーディネートや着まわしを提案して販促を行うもの。視聴者は動画を見ながらコメントや質問をしたり、商品を購入することもできる。一般のオンラインショップのように静止画面で商品を表示するよりも、商品の魅力が伝わりやすく、販促効果が高いと言われている。

     シップスのEC売上高は、今期100億円を突破する見込みだ。通常の同社公式オンラインショップと比較すると、「ライブコマースによる購入率(サイトにアクセスした人が商品を買う割合)は、1時間の動画配信で約7倍です。アーカイブを残すこともできるので、後日アクセスした方々の購入率も約4倍になっています。興味を持って見て頂いている方が多いため、販促効果が高いことを実感しています」と、同社営業推進本部長の大塚祐史氏は明かす。

     ライブコマースをスタートしたのは、約1カ月間の準備期間を入れて、20205月から。同年1月にリリースしたメンズ・ウィメンズ・キッズの複合ブランド「シップスエニィ」でスタートした。システム会社モフリーの「タグズAPI」というクラウド型ライブコマースサービスを活用しているが、大塚氏は「タグズAPIは、指定されたタグを埋め込むだけでシステム的な実装が簡単だったので、一番早く始められると思い選びました。小回りが利くように小規模ブランドでスタートしたこともあって、すぐに軌道に乗りました」と振り返る。

     顧客の反応を確かめながら、スキルを向上させ、数カ月後には対象を子供服以外のシップスメンズライン、同レディスラインにも拡大した。現在では12週間に1回のペースで動画を配信しており、これまでに制作したコンテンツは約40本。コンテンツは基本的にブランド別に制作するが、自社ブランドだけでなく、仕入れの他社ブランドを含めたコーディネート提案なども行っている。

     動画1本で1時間が標準だが、1本当たりの1カ月間の売上は100万円以上に達するものもあるという。顧客が動画を見て商品をほかのECサイトで購入したり、店頭で買ったりしている可能性も大きいので、「実際の購入率はもっと高いのではないか」と、大塚氏は見ている。商品を購入するのは3040代が最も多く、女性客の関心が特に高いという。

     「実は、当社から情報を直接発信し、販促する機会を増やそうと、数年前から考えていました。ライブコマースもそうした構想の一つだったのですが、中国では1年ほど前から盛んになり、日本でも同業他社が取り入れるようになりました。新型コロナウイルスの感染拡大によって、実現する機運が社内で一気に熟したんですね」(大塚氏)

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