徹底考察! ドン・キホーテ新業態「ドミセ」出店の真のねらい

中井 彰人 (nakaja lab代表取締役/流通アナリスト)
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2023年8月、渋谷・道玄坂に、パンパシフック・インターナショナル・ホールディングス(東京都:以下、PPIH ※旧ドンキホーテホールディングス)の複合ビル「道玄坂通」がオープンし、大きな話題になっている。28階建てで、1~2階が商業エリア、3~10階がオフィスエリア、11~28階がホテルエリアとなっている大型複合施設を、あの「ドンキ」がつくったということもニュースなのだが、それ以上に、同ビル1階に出店したPPIHの新業態「ドミセ」が興味深い。これこそ、今後のドンキの方向性をうかがわせる画期的な店なのである。

ドミセ渋谷 道玄坂通ドードー店
ドミセ渋谷 道玄坂通ドードー店

他社PBとは一線を画す、ドンキの「情熱価格」

 「ドミセ」とは、PPIHグループのプライベートブランド(PB)である「情熱価格」商品だけで構成された店舗である。PPIH曰く、「ド」を超えた驚きが集まる「おドろき専門店」をコンセプトにした新業態店舗である、とのこと。情熱価格のロゴが「ド」をモチーフとしているため、「ドの店」、ドミセということか。「情熱価格」のうち、選りすぐりの約3200アイテムがズラリと並ぶ驚きが詰まった店、とプレスリリースにもあったが、PBだけで店をつくれるほどに情熱価格が充実してきた、ということだろう。

 なかでも、注目すべきが「ドすべりコーナー」である。これは、絶対売れると思って開発したにも関わらず、売れなかった商品を並べている売場で、それもかなり広く場所をとって多種多様な商品を並べている。売れなかった理由を書いた反省文や、「ここでも売れなかったら諦めます」といったユニークなPOPをつけて、大幅に値引きして販売しているのだが、ドンキらしく開き直った自虐ネタのセンスが好感され、大人気となっているようだ。

 情熱価格は2009年にスタートしたPBで、2021年にブランドメッセージを「ドンドン驚き」としてリニューアル。PBの解釈も「ピープルブランド」と規定され、ブランドロゴも「ド」をモチーフとしたものに変更された。この頃から、ドンキは、本格的にPBを軸とした売場づくりに踏み込んでいったようだ。

情熱価格をはじめとしたPPIHのオリジナル商品の売上高構成比は18.2%に達している(画像はPPIH IR資料より)

 2023年6月期には、国内のディスカウント事業とGMS(総合スーパー)事業におけるオリジナル商品の売上高は2851億円と、全体の18.2%に達しており、その存在感がかなり大きくなっている。情熱価格がめざすのはお客の「ワクワク・ドキドキ」であり、サプライズである。これまでにない新しいモノもあれば、機能を絞り込んで圧倒的安さを実現した家電など、“削ぎ落し”によって驚きの価格を実現した、独特の商品もある。

 また、商品価値の伝え方も独特で、商品名自体が300字を超えるような長い名前がついているモノも少なくない。ドンキのPBは、ほかの流通大手のPBとはまったく異なる思想をもってつくられていることは間違いなさそうだ。ただ、こうした商品開発では、前述した「ドすべり」が発生する可能性もあり、リスクを伴う。なぜ、同社はここまでPB強化に力を入れているのだろう。

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記事執筆者

中井 彰人 / 株式会社nakaja lab nakaja lab代表取締役/流通アナリスト
みずほ銀行産業調査部シニアアナリスト(12年間)を経て、2016年より流通アナリストとして独立。 2018年3月、株式会社nakaja labを設立、代表取締役に就任、コンサル、執筆、講演等で活動中。 2020年9月Yahoo!ニュース公式コメンテーター就任(2022年よりオーサー兼任)。 2021年8月、技術評論社より著書「図解即戦力 小売業界」発刊。現在、DCSオンライン他、月刊連載4本、及び、マスコミへの知見提供を実施中。起業支援、地方創生支援もライフワークとしている。

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