小売業は人のビジネス!従業員のやる気を引き出す=西友兼ウォルマートジャパンCEO 上垣内猛

聞き手:千田 直哉 (編集局 局長)
構成:小木田 泰弘
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投資に対するアソシエイトの意識が変化

──店長をはじめアソシエイトの考え方が起点となった施策もたくさん出てきたと聞いています。

上垣内 14年末までに全店舗にLED(発光ダイオード)の照明を導入したのはその1つです。売場の照明の明るさについてお客さまからご意見があったとアソシエイトが教えてくれたことが発端になっています。また、フレッシュ感を打ち出せるような青果什器の導入もそうです。お客さまの声を聞いたアソシエイトの意見、要望を集約し、優先順位をつけて売場の改善に取り組んでいます。

 アソシエイトはEDLC(エブリデイ・ロー・コスト)の重要性を十分に理解し、ムダに対する意識がとても高いのですが、これまでは計画にないことは提案しづらいと考えるきらいがありました。そこで、店長集会などを通じて、お客さまが求めているのならば、予算化されていなくても実行し、売上アップにつなげて投資を回収していこうと伝えていきました。その結果、「効果が期待できる投資については、まずは、積極的に提案していこう」とアソシエイトの意識が変わってきています。

信頼を得るため価格、品質、利便性を重視

──新CEOとしてのミッション(使命)はどんなことだと考えていますか。

上垣内 5月12日のCEO就任日に、「仕事に誇りとやりがいを感じられる職場環境をつくるのが私の使命です」とすべてのアソシエイトにメッセージを送りました。

 ウォルマート全体の使命である「Saving people money so they can live better」や4つの信条((1)お客さまのために尽くす、(2)すべての人を尊重する、(3)常に最高をめざす、(4)倫理観を持って行動する)を大切にすることはこれまで通りですが、私は、CEOとして、アソシエイトに自分の言葉でしっかりと伝えたほうがよいと考えました。

 また、ウォルマートの株主総会後、CEO就任から9週間後に全アソシエイトに送ったメッセージがP58の左下になります。株主総会でのダグ・マクミロンCEOの発言などを自分なりに日本語に翻訳したものです。一人ひとりのアソシエイトにリーダーシップを持ってもらい、全員で「明日のウォルマート・ジャパンを創っていこう」と呼びかけています。

──新CEOが考える「明日のウォルマート・ジャパン」はどんな姿ですか。

上垣内 お客さまが住まれているところには、当社の「西友」や「LIVIN」「サニー」の店だけでなく、競合店も多くあります。お客さまは複数の店を利用します。ですから当社は、お客さまに最初に選択される小売業になりたいと考えています。

 また、お客さまから信頼される小売業でありたいとも考えています。商品やサービスが安いだけでなく、気持ちよく買物ができたり、当社の店がお客さまの生活の一部になれるよう、お客さま一人ひとりの信頼を勝ち取りたいのです。

 少子化や高齢化、人口減少、可処分所得の減少などのトレンドは急には変わりません。その中で、お客さまは価格や品質、利便性などの要素を大事にされており、よりおいしいもの、より鮮度のよいものを食べたいという思いも変わらないでしょう。

 ですから、当社は信頼を構成する要素として、価格、品質、利便性などを重視しています。信頼を100とするなら、たとえば価格が50、品質が30、利便性が20というように、それぞれを店舗の商圏特性に合わせて要素をミックスし、お客さまからの信頼を勝ち取りたいと考えています。同時に、西友のプライスリーダーシップ(価格優位性)をしっかりとお客さまに伝えていくことをこれまで通り重視しています。

──価格ということでは、「西友は安い」というEDLP(エブリデイ・ロー・プライス)政策が消費者にずいぶん浸透してきました。

上垣内 商品本部やマーケティング本部をはじめとしたアソシエイトの努力の賜物です。

 たとえば15年3月から展開している「プライスロック」(一部の商品を最低6カ月間、一切値上げをせず低価格で販売する)キャンペーンは、EDLPを強化する施策です。よい結果が出ていますので、パートナーシップを結ぶお取引先さまのご協力も得られています。これは、1つの差別化策になっているのは間違いありません。

──15年1月には、プライベートブランド(PB)商品とナショナルブランド商品の「味」を消費者に比較してもらう「横綱チャレンジ」キャンペーンを実施。「生鮮食品満足保証プログラム」のもと、4月からは生鮮食品売場の点検を全社で徹底する「鮮度チェックプログラム」を開始しています。

上垣内 これも、お客さまからの信頼を勝ち取るための施策と位置づけています。

 実は、「横綱チャレンジ」は比較対象のNB商品もよく売れ、結果的にはお取引先さまとわれわれ双方にとって“ウィン・ウィン”の結果となりました。今ではお取引先さまから逆に企画をご提案いただくケースも増えてきています。

 「生鮮食品満足保証プログラム」による鮮度強化の取り組みについては、地道にやるしかありません。日本の小売業は鮮度を語らずして商売はできません。店舗での鮮度チェックに加えて、7月には物流センターに青果を検品する専任のアソシエイトを配置するなど、川上での鮮度チェックを強化する仕組みづくりにも力を入れています。

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聞き手

千田 直哉 / 株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア 編集局 局長

東京都生まれ。1992年ダイヤモンド・フリードマン社(現:ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。『チェーンストアエイジ』誌編集記者、『ゼネラルマーチャンダイザー』誌副編集長、『ダイヤモンド ホームセンター』誌編集長を経て、2008年、『チェーンストアエイジ』誌編集長就任。2015年、『ダイヤモンド・ドラッグストア』誌編集長(兼任)就任。2016年、編集局局長就任(現任)。現在に至る。
※2015年4月、『チェーンストアエイジ』誌は『ダイヤモンド・チェーンストア』誌に誌名を変更。

構成

1979年生まれ。2009年6月ダイヤモンド・フリードマン社(現ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。「ダイヤモンド・チェーンストア」誌の編集・記者を経て、2016年1月から「ダイヤモンド・ドラッグストア」誌副編集長、2020年10から同誌編集長。

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