ターゲット化するウォルマート、ウォルマート化するターゲット、その理由とは

在米ジャーナリスト:岩田太郎
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2024年の米経済を展望する上で、一部の米小売大手は「デフレの再来」や「景気減速」の可能性を予期している。こうした中、経済の変調に備えて互いの成功を模倣し始めたチェーンが話題だ。中・高所得層にアピールしてきたターゲット(Target)が中・低所得層に人気のウォルマート(Walmart)のフォーマットを採用する一方で、ウォルマートもターゲットをまね始めたのだ。各社の特徴を打ち出した従来の「棲み分け」の境界をぼやかす戦術の成否は──。

hapabapa/iStock

予想される消費減速、ライバルの手法を盗め

 米経済の指標が好調だ。2023年7~9月期の国内総生産(GDP)は前期比の年率換算で4.9%(確定値)も成長し、GDPのおよそ7割を占める消費が引き続き好調であることを示唆している。失業率は11月に3.7%まで低下し、時給の伸び率が再び上昇を始めた。しかし同時に、消費の力強さを支えてきた家計の状態に変調が見られる。

 米金融大手JPモルガン(JP Morgan)のストラテジストであるマルコ・コラノビック氏が12月7日に発表した分析では、99%の米国人の金融資産が、2024年にはパンデミック前のレベルよりも減少する見込みだ。多くの家計で政府のコロナ給付金の蓄えが底をついたと報告される。

 一方で、なかなかおさまらないインフレにより重なる値上がりで過去8年の累積インフレ率は25%を超え、多くの米国人が実質賃金の目減りを経験している。中・低所得層を中心に家計の負債が蓄積し、支払い遅延など息切れを起こす消費者が増えてきた。その中でも高所得層は、モノからサービスに比重を移しながら快調な消費を続けてきたが、彼らもまた財布のヒモを締め始めたことが各種統計で示唆されている。

 低所得層から高所得層まで消費が減速を始めた環境に、米小売チェーン大手はどのように対処しようとしているのか。

 ウォルマートのダグ・マクミロン最高経営責任者(CEO)は12月初旬のインタビューで、注目される発言を行った。マクミロン氏は経済専門局CNBCに対し、「ウォルマートの食品を除く商品の価格は昨年の今ごろと比べて5%下がった。このデフレ傾向で消費が上向き始めている」と語ったのだ。

 高止まりしていた電化製品や雑貨の価格がついに下がり始めたため、消費者が多く買い物をしてくれることに期待感を表したわけだ。その追い風に乗るべく、ウォルマートでは店舗の改装や現代化に取り組み始めた。

 具体的には、5億ドル(約750億円)を投じて、全米4616店舗のうち117店において「未来の店舗」をコンセプトに、ライバルのターゲットのような広々とした通路、自社アプリでの店内陳列案内、店内看板表示の改善、セルフレジの拡張、などに取り組んでいる。これらはターゲットが先行して開拓してきた手法だ。

 ウォルマートによるターゲットの模倣で最も目立つのが、入り口付近に設けられた「ミニ・ダラーストア」や包装済みの軽い食事の陳列コーナーだ。こうした工夫は、ターゲットを訪れる買い物客の楽しみとなっており、それをまねることでターゲットから客を奪おうとしているのだ。

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