個店経営でお客のニーズに対応、全員参加の商売が個店を強くする=ヤオコー 川野 幸夫 会長

聞き手:下田健司
構成:小木田 泰弘
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個店経営で多様化、個性化、高度化するニーズに対応

──「食の提案型SM」のコンセプトがどのようにして個店経営と結びついたのですか。

川野 日本は小さな島国であり、多様な民族が共存しているわけではありません。所得による生活水準の違いもそう大きくはないでしょう。しかし、先ほど述べたようにお客さまのニーズはより多様化、個性化、高度化しています。それにお応えするには、それぞれの店が商売の主体性を持つことが大切だと思うようになりました。

 周辺に若い人がたくさん住んでいる店と、お年寄りが多く住む店とでは、買い方や使い方、価格は当然変わってきます。広域商圏型で客数が多い総合スーパー(GMS)は、数字としてとらえるとお客さまのニーズは平準化されてしまいます。しかし、SMはGMSよりも商圏特性が明確に出ます。また、SMよりもさらに商圏が狭いコンビニエンスストア(CVS)では、その違いはより顕著です。お客さまのニーズは店ごとに微妙に異なり、しかもどんどん多様化、個性化、高度化していくわけです。

 ですから、店に来るお客さまのことをいちばんよくわかっている人たちが商いの主体性を持つことができれば、変化するニーズに対応していけると考えました。ヤオコーの個店経営とは、店ごとに従業員が商いの主体性を持って仕事ができる組織運営・体制と言えます。

──個店経営への転換は難しくありませんでしたか。

川野 口にするのは簡単ですが、個店経営の実現は困難の連続で長い時間がかかります。

 一般的なチェーンストアの組織運営は、本部の指示を店舗が実行するという指示・命令系統が原則です。店は本部から言われたことを忠実に実行することを求められます。実際、当時のヤオコーも中央集権的な本部主導型の組織運営を行っていました。

 そのような「言われたことだけをやる」ことに慣れた店の従業員に対し、商売の主体性を持って「自分で考えてくれ」と言ってもすぐにできるはずはありません。そのようなことができる人材を時間をかけて育成していくか、あるいは商売の主体性が自然と持てるような会社の風土をつくっていかない限り、個店経営は実現できないと思います。

 ヤオコーでは、私が中心となって、店長をはじめ、パートナー(パートタイマー・アルバイト)さんに対しても「食の提案型SM」のコンセプトや商いの考え方を、会議や朝礼、社内報、パートナーさんとの懇親会などさまざまな機会を通じて今でも説明するようにしています。

 店長の教育は、5年、10年で終わるものではありません。相当の時間がかかります。

 また、個店経営への移行期には、「私は言われたとおりの簡単な仕事をしたい」と、退職されたパートナーさんがいたことも事実です。ミスマッチは会社にとってもパートナーさんにとってもマイナスですから、採用時にしっかりとヤオコーの商いについて説明し、そのうえで働いていただくようにしました。今ではパートナーさんの離職はほかのSMに比べて相当減っていますし、店のオープン時から働いているパートナーさんは多くいます。

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1979年生まれ。2009年6月ダイヤモンド・フリードマン社(現ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。「ダイヤモンド・チェーンストア」誌の編集・記者を経て、2016年1月から「ダイヤモンド・ドラッグストア」誌副編集長、2020年10から同誌編集長。

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