23年ぶりの社長交代! イオン電撃人事の裏側

雪元 史章 (ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長)
小野 貴之 (ダイヤモンド・チェーンストアオンライン 副編集長)
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岡田社長が露わにした”危機感”

イオン社長交代
約23年間にわたって社長を務めた岡田元也氏は代表権のある会長に就任

 電撃的な人事で社長交代に踏み切ったもう1つの要因と見られるのが、企業としての成長鈍化だ。岡田社長は会見で「ここのところ、イオンの成長スピードが落ちている」と述べ、グループの成長停滞への危機感を隠さない。

 もちろん、同社も手をこまねいていたわけではない。「小規模な事業を立ち上げ、それによって若い人材が学習し、成長できる機会を用意する――。それこそが私の最後の使命であると考え、この5~6年間はさまざまな手を打ってきた」(岡田社長)。その一例が、16年に立ち上げたオーガニック専門店「ビオセボン」であり、同年に設立した冷凍食品専門店「ピカール」であり、岡田社長の言葉を借りれば「グループに新しい血を入れてきた」というわけだ。

 「ビオセボン」「ピカール」ともに店舗数は十数店舗と、事業規模的にはまだ小さい。だが岡田社長はこれらの取り組みについて「細分化された仕事を続けたまま30~40代になってしまった人材に、新たな機会を設けることができた」と評価する。このような既存人材の活性化を加速させるのも、社長交代のねらいであると見られる。

 「日本全体が『固定化』していく中で、イオングループだけは自由かつ流動的な組織でありたい。成功した人間がもっと(事業を)大きくさせていく、そんな“擬似空間”をグループの中につくりたい」(岡田社長)。流通を取り巻く環境は激変している。変化に柔軟に対応できる流動的な組織・体制づくりによって、グループを再び成長軌道に乗せたいという岡田社長の思惑が透ける。

「世襲はしない」の公約を守ったが……

 社長交代会見で吉田副社長は「話を受けたのは年末」と明らかにした一方、このタイミングでの交代の理由を問われた岡田社長は、社外取締役らと次期社長人事について議論を重ねてきたとしつつ、「(社長を)死ぬまでやっていくというわけにはいかない。ただ、具体的に昨日今日の話になるとは思っていなかった」と話し、比較的スピーディな流れで社長交代の話がまとまったことを明かした。

 なお、岡田社長はかねてより「世襲はしない」と公言してきた。その意味で、今回の社長交代人事は”公約通り”と相成ったわけだが、同氏の長男・尚也氏はイオングループのオーガニック専門スーパー、ビオセボン・ジャポン(東京都)の代表取締役社長を務めている。岡田社長は「私が社長に就任したときに(外部から)『世襲だ』といわれたので、『世襲はしない』と申し上げた。(イオンが推進する後継者育成計画)『サクセッションプラン』のなかで私が(立ち位置として)どこにいるかもわからないし、本人(尚也氏)がどう思っているかはわからない」と発言し、今後については含みを持たせた。

 とはいえ、当面は吉田新社長が国内最大手の流通グループをけん引していくことになる。喫緊の課題であるデジタル戦略の推進・強化と、柔軟な組織づくりを実現できるか。その手腕に注目が集まる。

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記事執筆者

雪元 史章 / ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長

上智大学外国語学部(スペイン語専攻)卒業後、運輸・交通系の出版社を経て2016年ダイヤモンド・フリードマン社(現 ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。企業特集(直近では大創産業、クスリのアオキ、トライアルカンパニー、万代など)、エリア調査・ストアコンパリゾン、ドラッグストアの食品戦略、海外小売市場などを主に担当。趣味は無計画な旅行、サウナ、キャンプ。好きな食べ物はケバブとスペイン料理。全都道府県を2回以上訪問(宿泊)。

記事執筆者

小野 貴之 / ダイヤモンド・チェーンストアオンライン 副編集長

静岡県榛原郡吉田町出身。インターネット広告の営業、建設・土木系の業界紙記者などを経て、2016年1月にダイヤモンド・リテイルメディア(旧ダイヤモンド・フリードマン社)入社。「ダイヤモンド・チェーンストア」編集部に所属し、小売企業全般を取材。とくに興味がある分野は、EC、ネットスーパー、M&A、決算分析、ペイメント、SDGsなど。趣味は飲酒とSF小説、カメラ

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