沈まぬアパレルその4 オンワード、三陽商会、レナウン……百貨店依存型アパレルの苦難

流通ジャーナリスト:森田 俊一
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百貨店との関係を示す、あるエピソード

 周知の通り、オンワードをはじめとしたアパレルメーカーが、現在の苦境に追い込まれた主因は、百貨店の不振である。百貨店の衣料品(紳士服、婦人服、子供服など)の合計売上高は、ピーク時の91年は6兆円を超えていたが、18年には約1兆7700億円と3分の1以下にまで落ち込んでいる。

 もちろん、「ユニクロ」に代表されるカジュアル衣料チェーン、「H&M」のような外資衣料専門店の台頭により、消費者の衣料品の買い場が移行したこともある。だが、大きな原因は、「消化仕入れ」「委託販売」「派遣店員」といった、アパレルメーカーと百貨店が築き上げた“リスクを取らない仕組み”への依存にあるのは間違いないだろう。

 前出の経営コンサルタントは「アパレルメーカーは、百貨店との運命共同体という関係のなかで、自家撞着を引き起こしていた」とも指摘する。

 こんなエピソードがある。オンワードはかつて、ショッピングセンター(SC)向けブランドの強化に乗り出したことがある。同社は現在、「any SiS(エニィスィス)」「any FAM(エニィファム)」というブランドを展開しているが、2005年の発売当初、これらのブランド名は現在と異なっていた。

 旧ブランド名は「組曲sis」「組曲FAM」。かねてより百貨店で展開していた主力ブランド「組曲」に「sis」「FAM」を付けただけだったのである。

 これに対し、大手百貨店は猛反発する。「組曲は百貨店で育てたブランドなのに、名前を少し変えてSCで売るとはけしからん」(当時の大手百貨店幹部)と差し止めを要求したのである。結果、オンワードはブランド名を変えて、SCで販売するかたちに落ち着いたというわけだ。

“失った20年”を取り戻せるか

 オンワードとしても百貨店の販売が振るわなくなっていくなかで、SCという新天地を求め、事業を強化したい思惑があったのは間違いない。だが、百貨店側の横やりによって、方向性の修正に追い込まれた格好だ。

 このようにオンワードのような旧来のアパレルメーカーは、百貨店との関係があまりにも強固で抜き差しならぬ間柄となっており、しがらみを断ち切れないまま現在に至っている。ECという新潮流のビジネスにも乗り遅れた。

 オンワードは20年2月期、この600店の店舗閉鎖に伴い、希望退職350人の募集など構造改革を断行、通期の連結業績予想では240億円の最終赤字になると発表した。同じく百貨店依存のビジネスモデルである三陽商会(東京都)も、20年2月期は4期連続の最終赤字の見通しとしており、レナウン(東京都)も19年12月期上期決算では、18億円の最終赤字に沈んでいる。

 そうしたなかでも各社は、遅ればせながらECにカジを切り始めている。オンワードのEC事業売上高は現在255億円(19年2月期)だが、22年2月期にこれを500億円にまで引き上げるとしている。レナウンもEC限定ブランドを立ち上げたほか、三陽商会もEC拡充の方針を打ち出す。

 しかし、ネットではアマゾンはもとより、ZOZO(千葉県)を筆頭とする先行組や、国内1強のファーストリテイリング(山口)が引き離し体制をとり始めている。また、DtoC(ダイレクト・トゥ・カスタマー;消費者直販型)のビジネスも萌芽している。アパレルメーカーは今後、“失った20年”を取り戻すことができるか――。

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