誰でもデザイナーになれる ユニクロ「UTme!」にアパレル業界が駆逐される理由

河合 拓
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 ユニクロを展開するファーストリテイリングは一見あまり力をいれて売り込んでいないようだが、スマホのアプリに「UTme!」というものがあって、これは、自分で服をデザインしてポチると、自分がデザインしたオリジナルTシャツが、なんと一週間以内に自宅に届くという、魔法のようなアプリである。今回はこの可能性とアパレル業界に与える影響について論じてみたい。

UTme!が可能にしてしまったこと

 実は、Tシャツを使って、消費者自身が自分でデザインしWEB上で発注する仕組みは20年ぐらい前からあった。実際、私自身がその開発とプロジェクトに関わっていたのだが、当時、その斬新なアイデアとは裏腹に、ビジネスとしては全く成功しなかった。理由は、当時はまだ「スマホ」がなかったこと。ECといえばパソコンの時代で、今ほど皆が気軽に使えなかったこと、そして、なによりオーダーするには、デザインを描くときAdobeIllustratorというプロ御用達の画像作成ソフトを使い、非常に厳密な規格でデザインし、webに上げる必要があった。このハードルの高さのため、一般の人には普及しなかったのだ。

  実は私の絵画歴は数十年以上あり、オークションなどで密かに絵を売っていたほどの腕前だ。こんな私であっても、Illustratorの勉強をしなければそもそも絵にならず、「ベクトルデータ」というデジタル独特の概念にどうしてもなじめなかった。また、数十枚以上の単位で発注がはいらないと量産化しないというルールもネックとなった。そのため、このプロジェクトは途中で断念してしまったのだ。企画者の本人ができなかったものが一般化するはずは無い。当時、パソコンは一部の人間しか使えず、今ほど一般化されてはいなかったのである。

 しかし、このUTme!を使ってみると、当時の課題のほとんどが解決されていた。おそらく、絵心もなく、デジタル知識もない素人がテキストや写真を選んで、スマホを「フリフリ」すれば、なんとなくアーティストっぽいデザインができてしまうし、それをTシャツにプリントし、ポチれば、例え一枚でも自分専用のTシャツができてしまう。

 たった一枚でもだ。

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ネタ切れのアパレルビジネスで、次に何が起こるか?

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