震災後はいっそう、価格志向と提案力が求められる時代になる=ヤオコー 川野清巳 社長

聞き手:千田 直哉 (編集局 局長)
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──「価格コンシャス」と「ミールソリューション」が必要だということですね。

川野 震災の影響で、お客さまの財布は痛んでいます。そのときに値ごろで商品を提供することで生活者は助かるはずです。今こそ「価格コンシャス」が重要だということです。

 一方で、内食化の傾向が強まりますから、よりいっそうの「ミールソリューション」が必要になります。実際、震災後もセミアップグレード商品は結構売れました。

 たとえば精肉部門なら、頻度品の「切り落とし」のような商品も売れましたが、一方でちょっとグレードの高い焼肉も好調でした。問題は、店舗がお客さまにどう提案するかということです。

 自粛ムードの中でも、食事を楽しもうという家庭はあります。さまざまなお客さまの価値観に対応するのが、私たちの仕事です。

 売場にモノを置けば売れて、しかも粗利益が取れてしまう時期が、企業にはいちばんよくない。非常に楽な状態なので、放っておくと何もしなくなってしまうからです。「売れて儲かる」ほど、お客さまは離れます。短期的には売れても、お客さまは今“通信簿”を付けていますから、後で必ずしっぺ返しが来るはずです。この3ヵ月間の対応が、今年1年を占うことになると思います。

 現場には「今、稼いでいる粗利益分をもっとお客さまのために使え」と指示しています。特売がないと粗利益が取れますが、「特売するための商品が揃わないから、仕方ない」とするのか、「お客さまが大変な今、何とかしよう」と思うのか。私たちは後者です。

 パートナーさんに聞いたところ、震災後に当社の売価を「安い」と評価してくださるお客さまが増えたといいます。特売ができない中でも、個店ごとに値ごろ感を打ち出した結果だと見ています。

──「スーパーマーケット販売統計調査」を見ると、SMの既存店売上高は3月に対前期比3.6%増となったものの、4月に入って同0.6%減と落ち込みました。そうした中でもヤオコーの既存店売上高は4月も同4.9%増と順調に推移しています。

川野 当社の既存店客数は4月も同6.2%増と伸びており、5月も順調に推移しています。このことを私は、震災前後でお客さまの動きが変わったと見ています。

 前向きに解釈すれば、今まで他社に流れていた方が当社のお客さまになったということ。後ろ向きにとらえれば、これまで当社は近所のお客さまの一部をつかめていなかったということです。

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聞き手

千田 直哉 / 株式会社ダイヤモンド・リテイルメディア 編集局 局長

東京都生まれ。1992年ダイヤモンド・フリードマン社(現:ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。『チェーンストアエイジ』誌編集記者、『ゼネラルマーチャンダイザー』誌副編集長、『ダイヤモンド ホームセンター』誌編集長を経て、2008年、『チェーンストアエイジ』誌編集長就任。2015年、『ダイヤモンド・ドラッグストア』誌編集長(兼任)就任。2016年、編集局局長就任(現任)。現在に至る。
※2015年4月、『チェーンストアエイジ』誌は『ダイヤモンド・チェーンストア』誌に誌名を変更。

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