プラットフォーマー起因の歪な過剰生産が生み出す巨大ビジネス、SheinとShoichi

河合 拓 (株式会社FRI & Company ltd..代表)
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Shein3日で3000SKUを生産するのは不可能

Sheinはアパレルを作っているのではない、集めているのである
Sheinはアパレルを作っているのではない、集めているのである

ものづくりの現場を知っている人であれば、3日で3000SKUを生産するなど物理的に不可能であることはすぐにわかる。これは、リードタイムの問題でなく、素材の問題だ。商社の方は考えてもらいたい。

このような「限定ブランド」に安易に飛びつき、根拠のない大量生産悪玉論を突きつけられて少量発注を繰り返した結果、売れ残った残品、残反を使っているだけだと私が解説したら「他のコンサルタントが違うことをいっている」という問い合わせが舞い込んできた。

しかし、3000種類のバルク素材、布帛、ジャージー、ニット原糸などの「素材」を半日から1日で集め、のこりの二日で修正もせずにパターンを引いて3000ものSKUを作れると思うか?これは、スマートファクトリーがどうだとかいう問題でなく、物理的な素材の有無の問題だ。そもそも、PTCのマテリアルエクスチェンジという世界の素材を集めるプラットフォームにある素材が4000種類しかないのに、どうやって3日で3000SKUの商品を回転させられるのか。こんなことは少し考えれば誰でもわかるだろう。

Sheinがやっているのは、このような世界的潮流の結果生まれた余剰在庫を買いあさり、低価格で売っているだけなのだ。実は、同じような商売は、日本でも展開されている。それがShoichiであり、ワールドと組んでオフプライスストアで半値八掛けで販売しているゴードンブラザーズである。
知らない人のために補足しておくと、Shoichiとは「眠れる在庫に魂を与え、再び輝くステージを与えます!」を理念に、法人向けに特化した在庫処分代行業を行っている会社だ。
つまりSheinがやっているのは、このShoichiのモデルやゴードンブラザーズのビジネスを越境ECでやっているだけなのだ。

以前この説明を本オンラインでした際、最も多かった質問は「余った商品を押しつけられてどうやって商品政策(MD)が組めるのか」というものだった。だが、それは順序が逆だ。データベースマーケティングによって、売れる商品のサイズ、シルエットなどをあらかじめデータとして持ち、それに合致した商品だけをSheinは買っているところが、Shoichiとは異なるところだろう。
実際私は、中国で友人がSheinのウエブページをAIスマホの画像検知で写真を撮り、サーチしたところ、6つの異なるウエブサイトに、全く同じモデル、同じ服が売られていたのを、Zoom会議で見た。ちなみにモルガンスタンレーは、2022年にSheinZARAを抜かして世界トップになる可能性があると予想している。

私たちは、もっと論理的、分析的にものごとを見て本質的な考え方の枠組みを固めるべきだろう。アパレル産業はあまりに「感覚経営」がはびこっている。例えば、こうした世界の潮流をみれば、いまさら、時代遅れのPLM (Product Lifecycle Managemen) などですったもんだしているのが、いかに周回遅れとなっているかおわかりだろう。世界は一足飛びに中間流通を排除した「本物のD2C x Shoichiモデル x 越境EC」が主流なのである。PLMによるプラットフォームなど、遅きに逸した話である。時代の変化のスピードは恐ろしい勢いで進んでいる。日本企業の稼ぐ力が減り、為替が円安になれば、価値ある企業は必ず買収対象になる。

また、トヨタと日産が12月14日、とうとうEV移行をオフィシャルに発表したように、アパレル産業には、生産段階で環境負荷を与える工程の計測、報告、管理義務が課せられ、放置プレイになっている余剰在庫にも炭素税がかけられると私は観ているが、そうした流れと逆走し、直貿化を進めキャッシュコンバージョンサイクルを悪化させている。今、アパレル産業に必要なのは、徹底して昔の常識を疑いグレイヘアの上司達と戦い若い世代が論理的、合理的に新しいビジネスモデルを学び実現することだ。私は、そのためIFIビジネススクールで最新のアパレルの経営理論を若手に教えている。ぜひ、数多くのアパレル企業に門を叩いて頂きたい。

 

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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