焦点:アマゾン労組結成、複合要因で圧倒的な敗北

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アマゾンのロゴ
米アラバマ州ベッセマーのアマゾン・ドット・コムの物流倉庫で労働組合を結成しようとする動きは、従業員投票で否決された。写真はアマゾンのロゴ。パリで2018年2月撮影(2021年 ロイター/Charles Platiau)

[9日 ロイター] – 米アラバマ州ベッセマーのアマゾン・ドット・コムの物流倉庫で労働組合を結成しようとする動きは、従業員投票で否決された。事情に詳しい関係者は(1)労働者組織化に反対するアマゾンの猛烈な働き掛け,(2)労組結成で果たして待遇改善を勝ち取れるのかという懐疑的な見方が従業員に広がったこと,(3)投票条件を巡る決定――が全て、労組支持派の圧倒的敗北の要因になったとみている。

9日に判明した投票結果は、労組結成反対票が賛成票の2倍以上に達した。既存の労組指導者らは、米国内に初めてアマゾン従業員の労組を立ち上げ、労働運動の新たな時代を切り開くことを望んでいた。結果は逆に、労組運動が直面する長年の課題を浮かび上がらせた形だ。

結成運動を主導した小売業界の労組「RWDSU」幹部は、アマゾンが不公正な戦術で投票に干渉したと主張し、結果に異議を申し立てる方針。実際の投票総数は有資格者総数の半分をようやく超えただけだったのだ。

RWDSUは声明で「アマゾンの行為は(従業員の間に)混乱や抑圧、報復を恐れる空気をもたらし、結果として従業員の選択の自由を妨害した。今回の投票結果は無効にするべきだ」と強調した。

これに対し、アマゾンはブログで、投票結果が従業員を脅したことによるものだとの見方を否定。

「われわれは常に従業員の声に一生懸命耳を傾け、彼らから意見を集め、環境改善を続けるとともに、安全で多様性の高い職場で多くの報酬や福利厚生を提供できるように相当大きな投資をしている」とした。

すさまじい反労組アピール

アマゾンは投票までの何週間か、激しい「選挙活動」を展開。反労組のメッセージを印刷した紙をベッセマーの倉庫の至る所、揚げ句の果てはトイレの個室内まで貼り付けたり、従業員に仕事を中断して投票問題の集会に参加することを強制したりしたほか、RWDSUを批判するオンライン文書を従業員に繰り返し送り付けた。

ロイターが確認したメッセージの1つでは、団体交渉が行われれば従業員はせっかく手にしている各種福利厚生を失いかねないと、倉庫運営幹部が警告。そのメッセージには、団体交渉をするなら「全てが議題になる」との文言があった。労組側はこれに異を唱えていた。

強制的な集会に出た元倉庫従業員はロイターに、労組指導部というものは組合費を高級車や休暇など不適切な目的に流用するとの説明を聞かされたと明かした。

もっとも何人かの倉庫従業員は、今回の労組結成運動の至らなさが「敗因」だと指摘した。労組参加経験もなく労働運動の歴史も知らない多くの若い世代は、組合化にメリットがあるという意見に全く納得できていないと3人の従業員は話す。アマゾンの賃金が平均的な相場を上回っていることや、地元の他の雇用主に比べれば労働条件が良い点が逆風になったとの声も聞かれた。

若者の支持得られず

今年3月までベッセマーの倉庫で顧客注文を受け付ける業務をしていたディニーン・プロットさん(56)は、労組結成賛成に一票を投じたものの、「ここの仕事は良い報酬が得られるし、福利厚生も素晴らしい」と述べ、若い従業員は「健康面や安全面でそれほど危険な状況に置かれていないので、労組の必要性を感じていない」と分析した。

従業員の一部によると、労組に賛成してしまうと、そうしなければ避けられる経営陣との恒常的な衝突につながるという懸念もあったという。

元倉庫従業員によると、重い荷物の上げ下ろし作業を担当する倉庫従業員のグループは労組結成に反対で、医療保険といった現在のアマゾンの福利厚生に感謝している。労組全般についても運営の腐敗などと結びつけて考え、存在意義に疑問を持っているようだと指摘した。

自動車業界での労組敗北も影響

米労働省のデータに基づくと、2020年の民間セクターの労組加入率はわずか6.3%にすぎない。組合員数も19年に比べて42万8000人減少した。全米の労組指導部らは、アマゾンで組合が結成できれば、そうした退潮をたどる労働運動の盛り返しにつながると期待していた。

米南部ではここ何年か、日産自動車やフォルクスワーゲン(VW)の自動車工場や、航空機メーカーのボーイング工場で、注目を集めた労組結成の投票が相次いで否決されている。きっと労働者は賃金水準と労働環境に不満を持ち、経営陣と膝詰め談判して待遇の劇的な向上を得る足掛かりとして労組を維持するだろうという運動指導者の賭けは、毎回失敗している。

米自動車メーカーが全米自動車労組(UAW)に浴びせてきた非難も、ある部分、今回のアマゾン労組結成運動の苦戦をもたらした。UAWの複数幹部が労組資金横領で告発された際、会社側は有罪判決を大きく主導してきた。

ベッセマーの倉庫のプロセスアシスタントで労組結成に反対票を投じたウィリアム・ストークスさんは報道陣に、労組の行動に不安感を持っていると述べた。

労組結成支持派が投票手続きを巡って下した決断が裏目に出た可能性もある。RWDSU側は当初、投票対象として1500人を提案していたが、アマゾン側の弁護団は昨年12月、倉庫には何千人も投票資格を保有する従業員がいることを説明する長々とした文書を当局に提出。これをRWDSUは受け入れ、投票実施対象は結局5800人余りになった。

全米労働関係委員会経験者などの労働問題専門家によると、企業はしばしば、こうした労組結成の是非を問う投票で、過半数の賛成獲得を難しくするために有資格者の追加を提案する傾向がある。

ただアマゾンの代理人を務めるモルガン・ルイス・アンド・ボッキアスのパートナー、ハリー・ジョンソン氏は、アマゾンとしては単純に、倉庫で働く従業員全員に必ず投票の機会を与えようとしただけで、追加投票資格者の中には派遣労働者など、必ずしもアマゾン側の立場でない人たちも含まれている可能性があると反論した。

RWDSUのアッペルバウム事務局長はインタビューで「投票資格者はわれわれが適正と考えた規模より大きくなった。だが、われわれが投票前にそれを受け入れなければ、数年にわたる法廷闘争になっていた」と苦しい状況を訴えた。

時間がアマゾンに味方

投票方法に関して、アマゾンはコロナ対策として適切な距離を保った形での投票所方式を提案したのに対して、RWDSUは郵便投票方式を要求。これは通った。ところが全米労働関係委員会は投票期限を3月29日とし、用紙郵送から数週間後と余裕をもたせたため、アマゾンが従業員に反労組キャンペーンを展開する時間を2カ月近く、さらに与える形になった。

オバマ政権時代に同委員会委員長を務めた民主党員のマーク・ピアース氏は「時間は雇用主が労組を打ち負かす武器の役目を果たす」と断言する。締め切りまで余裕を持たせたのは、米郵政公社(USPS)による票の配送業務に不安があったためである可能性が高いが、新たに生まれた時間の猶予がアマゾンに有利な状況をもたらした可能性も高い、とピアース氏は説明した。

RWDSUは投票日が近づくとともに複数の米議員やバイデン大統領の応援を得た。民主党のサンダース上院議員や有名なラッパーが現地に乗り込んで応援集会を開いたほどだった。

ただ、ミシガン州選出のレビン下院議員(民主党)など労働者の権利擁護の活動家らによると、アマゾンと労働者の力の違いがあまりにあり過ぎて、乗り越えることができなかったと言えるという。

「アマゾンのような大企業が強めてくるプレッシャーは、まるで胸に1000ポンドの重しを乗せられている感じだ」とレビン氏はツイッターで語った。「アマゾンは、それほどのプレッシャーや不安、恐怖を従業員に与える。その狙いは、労組がある限り、そうしたプレッシャーから逃れられないと思わせることだ」と指摘した。

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