1兆円へ、加速するリテールメディア!「価値」最大化に向けた有力小売の戦略とは

文:雪元 史章 (ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長)
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先進企業で進む「価値最大化」の模索

 すでに一部の先進的な企業では、リテールメディアの価値を最大化するための動きが加速している。

 たとえば、コンビニエンスストア大手のファミリーマート(東京都)は、自社決済アプリ「ファミペイ」をリテールメディアの1つとして位置づけ、活用域を拡大している。顧客IDと紐づけた購買データを分析しつつ配信コンテンツの最適化を行うことで、“出稿価値”を向上させ、ファミペイ上の広告コンテンツの配信数は前年の約2倍に増加、クライアント数は約150社を数える。

 また、デジタルサイネージ「Family MartVision(ファミリーマートビジョン)」を約9000店舗に導入。コンテンツの制作・配信を担う専門企業を合弁で立ち上げ、サイネージに設置したAIカメラをもとにした視認率や視認時間、視認者の属性分析を行いつつ、出稿主と協業しながら、アプリ同様にコンテンツの配信効果の最大化を図っている。

 ユニークな切り口でリテールメディア事業を推進しているのが、「ドン・キホーテ」などを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(東京都)だ。もともと約1300万人もの基盤を持つ「majica」会員の購買データを活用するのに加え、「majicaアプリ」上で店舗や商品について会員同士で自由にコメントをやり取りできる新機能を搭載。ここで得た顧客の“本音”もデータ化することで、自社のプライベートブランド(PB)商品のみならず、外部メーカーの商品開発にも活用領域を広げている。

 さらに23年12月には博報堂(東京都)とともにリテールメディア事業を展開する合弁会社「pHmedia(ペーハーメディア)」を新設。同社では前述の購買データやmajicaアプリ上のコメントなどを分析したうえで、メーカーに対して最適なブランディング戦略と販促戦略のソリューションを提供していく計画だ。認知を広げるための「ブランディング」と、商品の売上を増やすための「販促活動」の両方にアプローチするというわけである。

 また、「地域単位」で連携してリテールメディア事業を推進しようという動きも生まれている。トライアルカンパニー(福岡県)やイオン九州(同)などが参画する「九州リテールメディア連合会」だ。同会には小売企業だけでなく、広告代理店や地元メディアなども参加。売場を起点として、マーケティングファネルの上位に位置するマス広告までさかのぼった、リテールメディアプラットフォームの構築を、競合や業種の壁を越えてめざしている。

 このように、リテールメディアの領域で先行する企業は、目先の広告収益ではなく、自社のリテールメディアの価値を明確にし、それを最大化するための取り組みを進めている。

リテールメディア市場を開拓するためには、自社のリテールメディアの「価値」を最大化することが肝要となる

 繰り返しになるが、リテールメディアはお客にとっても出稿主にとっても、価値あるコンテンツ・媒体でなければ機能しない。まずは「どういう価値をお客・出稿主に訴求するのか」を、小売側が意思を持って決断することが重要だ。その価値が、結果として収益をもたらすことになるのだ。

 本特集では先進的な小売企業のほか、リテールメディアの市場開拓に動くEC、広告代理店、スタートアップ企業などさまざま業種のケーススタディを取材した。リテールメディアの価値最大化を図るためのヒントを探っていただきたい。

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雪元 史章 / ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長

上智大学外国語学部(スペイン語専攻)卒業後、運輸・交通系の出版社を経て2016年ダイヤモンド・フリードマン社(現 ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。企業特集(直近では大創産業、クスリのアオキ、トライアルカンパニー、万代など)、エリア調査・ストアコンパリゾン、ドラッグストアの食品戦略、海外小売市場などを主に担当。趣味は無計画な旅行、サウナ、キャンプ。好きな食べ物はケバブとスペイン料理。全都道府県を2回以上訪問(宿泊)。

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