小売業の衛生対策 来店客、従業員の安全安心を第一に各種衛生対策に力を入れる

森本 守人 (サテライトスコープ代表)
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「コロナ通知」で業務指示

 感染力の強い変異種が登場すれば形勢一変するのが、新型コロナウイルスの恐ろしさ。その意味では、予断を許さない状況は今も続く。だが直近は感染者数が一段落、また外国人観光客の受け入れも再開され、ひとまず小康状態を保っているのが現状である。 そのなかでも平和堂は、粛々と新型コロナウイルス対策を続ける。

 店舗での営業、そして本部をはじめ業務分野についてはその都度、適切な対応を行っている。具体的には、営業分野では支配人や店長など店舗責任者、業務分野では各部署の役職者に対し、メールで業務指示を送信する。

 メールのタイトルは「新型コロナウイルスの対応について」で、社内では「コロナ通知」と呼ぶ。施策は対策本部で決定後、経営トップが承認したものを、2週間に1度の頻度で関係各方面へ伝える決まりだ。店舗では、それを受け取り、朝礼や各種会合などを通じ従業員に周知徹底している。なおコロナ通知は20年2月からスタートし、これまで累計60数報を数える。

平和堂の店舗入り口に置かれたアルコール消毒液の噴射器
店舗の入口には、アルコール消毒液の噴射器を設置している。消毒後、入店するという行動が定着していた

 現在、各店で実施する感染対策は、次の通りだ。店舗入口にアルコール消毒剤を自動で噴霧する専用機のほか、レジ、サッカー台付近、またサービスカウンターなどに飛沫感染防止のパーテーションを設置。また買い物カゴはじめ、多くの人が触れる部品等を定期的に消毒している。

平和堂のコロナ対策を施したサービスカウンター
サービスカウンターにも、感染対策を施す

 

 来店客に対しても、マスク着用のほか、レジを待つ際は1〜2mの間隔を空けることなどの協力を求める事項を決めており、それらを記したポスターを店内の随所に貼るほか、Webサイトにも掲載している。

店舗での衛生対策を伝える平和堂のWebサイト
Webサイトでは、店舗での衛生対策を伝えるとともに、来店客に対し「アルコール消毒液による手指消毒」「マスクの着用」などの協力要請を行っている

 ここ数ヶ月は、コロナ通知による各店への強い要請はほぼなくなっている。だが昨年9月まで、緊急事態宣言、まん延防止等重点措置が断続的に出された際には、対策本部の動きは慌ただしかった。

 とくに平和堂の場合、総合スーパー(GMS)企業であることが大きい。全157店のうち、約60店が多層階のGMS店舗。生活必需品以外は営業が制限された時期には、衣料品、住居関連売場を開けるかどうかについて、府県で異なる方針も考慮しながら経営層の判断を仰ぐ日々が続いた。

 「たとえば衣料品売場の場合、大阪府、兵庫県では営業が制限されたが、京都府では緩和された時期もあった。錯綜する情報を収集しながら、対応策に追われた」(西氏)

“柔らかい”健康情報を発信

 今回紹介したように、平和堂では来店客、従業員の安全安心を第一とする衛生対策に取り組んできた。その一方、最前線の現場で働く従業員に向けた情報発信にも力を入れていたというのは興味深い。

 「緊張して仕事をすることが多いなか、少しでも安心感を持って働いてもらいたいとの思いがあった」と、西氏はその意図について教えてくれた。

 「コロナ掲示板」という施策で、A3サイズの紙に、時期に応じた各種情報をプリントし、月に1回、各店へ配布した。対象はパートタイマー、アルバイトを含む一般従業員で、健康や日々の過ごし方に関する内容が中心。コロナ通知が“硬い”内容だったのに対し、コロナ掲示板は“柔らかい”情報を意識したという。

 「コロナは正しく怖がりましょう」と題し、「マスクの着用方法」や「正しい手洗いのやり方」などについて説明するほか、夏に向けては熱中症対策など、新型コロナウイルス感染症以外の話題も積極的に取り入れた。気温の高い場所で作業する場合は、一旦、マスクを外し、小まめに水を摂取することを推奨するなど、日々の体調管理で気を付けるポイントを伝えたこともある。

 従業員の反応は上々だった。一定の役割を終えたとして現在はすでに発行を中止しているが、業務命令と同時に、現場の雰囲気を和やかにする取り組みをしていたというのはユニークだ。

 また、従業員に向けて、感謝の気持ちを形で表した感謝金の支給を複数回実施したほか、トップからの感謝のメッセージをグループ報で都度発信。さらに、メッセージ動画や平和堂財団の協力によるリモートコンサート動画の配信なども行った。

 さて現状、感染者数がある程度、落ち着きを見せるが、平和堂では今後、どのような方針で衛生対策を続けるのだろうか。「これからは『ウィズコロナ』のもと、いかにお客さま、従業員、そして地域の安全安心を守るかがテーマになると考えている」と西氏は述べる。

 マスク着用が当たり前の時代では、最善の策を打っても相手の反応がわかりづらい一面があるという。人との距離が取りづらい「もどかしい時代」とも言える。そのなかでも平和堂は、「地域になくてはならない存在」を掲げ、来店客と従業員の安全安心を第一とした対策を講じていく方針だ。

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記事執筆者

森本 守人 / サテライトスコープ代表

 京都市出身。大手食品メーカーの営業マンとして社会人デビューを果たした後、パン職人、ミュージシャン、会社役員などを経てフリーの文筆家となる。「競争力を生む戦略、組織」をテーマに、流通、製造など、おもにビジネス分野を取材。文筆業以外では政府公認カメラマンとしてゴルバチョフ氏を撮影する。サテライトスコープ代表。「当コーナーは、京都の魅力を体験型レポートで発信します」。

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