日本の繊維産業の明るい未来を壊している犯人は誰だ? 米中「綿の代理戦争」の影響とは

河合 拓
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日本の繊維産業は本当は「未来が明るい」理由

yagmradam/istock
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 このカテゴリーに入らない素材が2つある。

 1つはスパンデックス、もうひとつはナイロンだ。スパンデックスはゴムのように伸縮があり、例えばデニムなどのように、ポリエステルのストレッチバックでは効果のでない比較的固い素材とほんの少しだけ混ぜられる。デニムの中でも柔らかい綿糸と一緒に織られると、日本の岡山が得意なストレッチバックのあるデニムができる。

 また、意外と知られていないのがナイロンだ。ナイロンとは、もともと資材用途であり、繊維の中でもっとも切れにくく頑丈な糸で、固形物を結びつけるために開発された。ご存じのPRADA(プラダ)は、この資材用途のナイロンでバッグをつくり数十万円で販売している。ちなみに、こうした合成繊維は、天然繊維が平均US$10-15.00/kgとすれば、US$2-3/kgといったところ。

 例えば、激安冬物ニットは例外なく「アクリル100%」だし、流行の「ポリエステル100%スーツ」などは、コスト削減のためのもので、中国Shein(シーイン)などは、化繊(化学繊維)ばかりである。余談ながら、日本人の8割が認知している、ユニクロの「ヒートテック」は、レーヨンなどに近い素材100%で、化繊アレルギーの人などには不向きで、私も素肌に化繊を身にまとう気持ち悪さを常に感じていた。だから当時、私は千趣会のHotcot (綿糸のヒートテックのようなもの)を絶賛していた。

 しかし、数年前からファーストリテイリングは、天然繊維の綿糸を使ったヒートテックを販売している。時間をかけて開発しただけあって、その着心地は最高で、今では私の冬場の常用着になっている。ファーストリテイリングにもはや隙は無い。

 一方、千趣会は当然こういう事態を予想できていたはずなのに、なぜ進化したHotcotをださないのかということだ。例えば、私なら麻混や、思い切ってカシミヤ100%などをつくるだろうが、そういう大胆な発想があっても良いと思う。 

 さて、この化学合成繊維はどんどん進化を遂げた。例えば、ポリエステルは「綿糸の混ぜ物」という地位から、非常に按配の良い「ストレッチ素材」として使われるようになり、人気を博す。

 また、化学合成繊維のほとんどは、化石燃料である石油が原料であるが、「次世代の繊維」としてタンパク質を利用し、14マイクロン(マイクロンは糸の太さを表し、イタリアの梳毛、高級ウールが19マイクロンに対して、カシミヤが16マイクロン)もの綿(わた)を利用したブリュードプロテインと呼ばれる繊維を日本の技術者が開発し、数千億円もの投資を世界から引き寄せたのは記憶に新しい。また、レーヨンの進化形であるベンベルグ(商標名)は、スーツの裏地の定番であり、アクリル長繊維は日本だけの技術である。

  私は世界に発信する国際放送で、ドイツの学者と日本の素材産業の今と未来について英語で討議した。その時、彼も「日本の持つ繊維原料の技術は未だに世界一であり、資材用途のカーボン繊維などを併せれば、素材産業の未来は明るい」と語り、それを受けて私は「特に途上国のインフラをゼロから作る場合、固形物のほとんどを繊維に置き換えることが可能であり、物理的な未来都市ができあがるだろう、そして、日本のGDPを押し上げる世界で最も競争力のある領域だ」と会場を驚かせる持論を展開した。

 「円安」で日本は大打撃とメディアは大騒ぎだが、意外と知られていないことがある。このアパレル不況の中で、円安の恩恵を受けて日本の素材の世界への輸出額は大きく拡大し、商社の赤字を補填するほどの勢いを見せているのだ。

 

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