「消費をしない」SDGs時代、多角化と集中化どちらを選択するべきか? 

河合 拓
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デジタル×D2C は競争優位の源泉とは限らない

海外ではD2Cと呼ばれるECを活用した、メーカー直販によるデジタル・リテーラー型ビジネスモデルが勢力を伸ばしているが、私たちが忘れてはならないのは、デジタルであること、また、D2Cであることが競争優位の源泉ではないということである。

 今、誰もが衣料品を必要以上に(瞬間的な購買動機で)買うことにためらいを感じ、デコラティブなファッションに身を包むより、できるだけ上質でベーシックな衣料品を長く使おうという雰囲気が社会的に漂っているように思う。

 私たちが身にまとう装いは、私たちを取り巻く社会環境や所得などと高い相関性がある。後付けにせよ、これまで「流行っていた」というトレンドも、裏側にある社会背景と併せて考えれば説明がつくものが多い。
そういう意味で、思考を広げて考えてみれば、「消費をしない選択を消費者がし始めた、というのもSDGsの必然的な帰結として新しいトレンド」なのではないか。
新型コロナウイルスが日本列島を襲う前は頻繁に朝まで飲み明かしていた人も、その経験を2年近くしていない。むしろ、自宅で巣ごもり消費をしデジタルによるリモート技術を使ってビジネスをすれば、3密を避けるため休日はジョギングやアウトドアで体を動かすようになり、人はそうしたライフスタイルに慣れてくる。こう考えれば、アウトドアやスポーツ衣料が比較的好調な理由もわかる。

多角化か集中化か 私の結論は

さて、本稿のテーマである「多角化」と「集中化」について、私なりの結論を書くと、やはり変化の大きな時代だからこそ、自社が持ちうる強みを生かし事業の幅を広げ、マネタイズポイント(収益が入ってくる入口)を複数持つべきだと思う。それほど、世の中は何が起きるかわからないからだ。

 反語的だが、私の結論は、「多角化か集中化かという問い自体が間違っている」というものだ。グループ経営や組織論など経営学的な説明はいくらでも可能だが、多角化がうまくゆくケースにおいても、そうでないケースにおいても、結局はそこで事業を営んでいる人の力による部分が大きいということを嫌というほど感じている。
そもそも、多角化の意図が不明瞭であったということであれば、それはマネジメントの問題であるし、理論上本業としっかり結びついたシナジーが明確であるにも関わらず、思うように複合事業体として機能しない場合、そもそもそのような専門性やモチベーションを持たない人員を無理に配員し、苦手なことをやらせているということもあるかもしれない。

私は、今後、アパレル産業は大きく生産量や供給量を減らす時代が来るだろうと思う。そうした中で、縮小均衡から抜け出すためには新しい事業のネタを巻いておく必要があり、否が応でもファッション産業は多角化の道を歩む必要がある。
今、アパレル企業が発電所新設に関わったり、自治体と提携し街作りを行ったりしているのはそうした流れだろう。近い将来、ファッションの定義そのものが根本的に変わり、文化創造事業などと呼ばれる日が来るかもしれないが、人が置き去りにならぬよう私たちはしっかりと多角化の意味を考える必要がある。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)

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