「消費をしない」SDGs時代、多角化と集中化どちらを選択するべきか? 

河合 拓
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選択と集中に潜む危険なリスク

Sushiman/istock
Sushiman/istock

私が繊維・アパレル業界に入って30年。この業界は多角化と集中化を繰り返してきた。平たく言えば、バブルの時など、景気が良いときは衣料品が売れ企業に金が余る。投資をしても、なお使い切れない金は「多角化」の名目で企業活動やサイズを膨張させていった。
多角化のセオリーは、その企業しか持ち得ない「強み」と強い関係がある領域に事業展開することだ。しかし、バブル時代、多くの金は「ただ上がりそうだ」という理由だけで、土地をはじめ本業とは関係ない事業に向かい企業の資本を食い潰していった。こうして、多くの企業は「投資」ではなく「投機」に金を振り向けた。

やがてバブルがはじけ、企業も使える金に上限が出、まるで一度広げた翼をたたむクジャクのように、多角化した事業やブランド・店舗をたたんでいった。いわゆる「選択と集中」である。
金融の世界には「コングロマリット・ディスカウント」という言葉がある。これは、複数の企業・事業を抱えた複合企業が一つひとつの企業・事業が持つ事業価値の合計より事業価値が低い状態を表し、各事業に「シナジー」(事業上の関係)が見えないときに使う用語だ。本業や強みを定義し、そこと強い相関性のある事業のみを残す本業一点突破の戦略はそれなりに説得力がある。

しかし、現実はそう単純ではない。

あるアパレル企業は、百貨店依存度が非常に高く、新たな成長を求め、当時全国に急激に増えていたショッピングセンターに進出した。だが、どれほど精緻に事業計画を作っても、リテールオペレーションと製造業型オペレーションでは、組織から文化、働く人の能力さえ異なっており、いつまでたってもうまく行かなかった。結果、やはり「得意なところで勝負しよう」ということでお金も時間もかけたいくつかのブランドを消滅させ、一時的には高収益企業となるも、その後、百貨店不況が襲い苦境に陥ったのである。
またある製造機能を持つアパレルは、アジアの国でフランチャイズ展開をしていたが、下方向への垂直統合によりリテーラーへの道を歩むも、赤字が止まらなくなり撤退したということもあった。

このように、本業の強みを生かせず多角化に失敗した話、強みを軸に集中化を行ったものの事業環境の変化で風前の灯となる話を聞くのは、1度や2度ではない。

正しい「選択と集中」とは、実はそう簡単なものではないのである。

 

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