アパレル業界 待ったなしのSDGs対応とリスクまみれの産業政策 地球温暖化で8000万人死亡・経済損失2兆円!!

河合 拓
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矛盾だらけのサーキュラーエコノミー

 次に、環境省のホームページを見れば、毎年新規投入される衣料品は、破棄されるかリサイクルされるか、輸出されるかし、綺麗さっぱり消えて無くなるかのごとく書かれているが、これは全くの事実誤認である。実態は、正確な統計は出されていないが、この日本には山のように隠された売れ残り在庫が、そして、アジアの工場には日本企業が「簿外在庫」と呼ばれる残反、あるいは、簿価ゼロの残反が、分割生産や少量生産の結果、山のように残っている

  私は、この隠された在庫をすべて吐き出させ、デッドストックに「炭素税」をかけ、二次流通市場に誘導する、あるいは、生産を著しく減少、リデュースさせ日本の補修技術を使ってリユースしメルカリがCtoCで行っている二次流通市場をBtoCで創出する。本気でカーボンニュートラルをめざすのであれば、日本市場に新製品を投入するということは、もはやその素材が何であっても環境破壊以外の何物でもない。(図表3 筆者の案

図表3 「サーキュラーエコノミー」とは、一般的に、作って、捨てるという消費型経済システムでなく「廃棄」されていた製品や原材料を新たな「資源」とし、再活用することで循環させる経済の仕組みのことを指す。一見、まともに見えるこの言葉にだまされがちだが、大きな視点で産業を鳥瞰してみれば本質的なところでその矛盾が見えてくる。(図表4 産業界の案)。

  図を見て頂ければおわかりだと思うが、日本には50億点以上の隠された余剰在庫がある。また、消費者は、ユニクロのようなコスパがしっかりしている商品を長年使い、タンスの中は服で一杯だ。ましてや、私たち日本人は、ここまできても、まだ強制力を使えないワクチン頼みなので、ウイルス変異とワクチンのイタチごっこが続き、これから数年の間マスクをし、自宅で働き、着飾るパーティーも、夜の外食も、海外旅行も今後2-3年は自粛する生活が続くと見るのが妥当だ。ならば、この隠された在庫を放置し、なぜ新しい商品を、毎年、市場が吸収する2倍の量を投入し続けなければならないのか。ファッションビルの丸井は、新業態MODIで、テナントの衣料品比率30%に下げ、店舗をショールームと見立て、在庫は一元管理しFIFO(先入れ、先出しのルール)で引当てすることで、劇的な在庫リスクの極小化をしている。また、神戸の名門アパレル・ワールドも、米国ゴードンブラザーズ(動産処理企業、一般に工場などの移転した跡地に残った機材を売却する企業。昨今は、アパレルの余剰在庫に着目)と組み、オフプライス・ストアという禁じ手を使っているが、これをハーベスト戦略(物販からプラットフォーマーへ移行する期間に金に換えられるものは全て金に換える戦略)とみれば合点が行く。

 私の提言のように、バリューチェーンに商品が流れず、消費者と小売がリサイクルとリユースを繰り返し、商品調達をリデュースして最も困るのは商社だろう。

 しかし、商社の本質は、人、モノ、金、情報を複合的に組み合わせビジネスを創造することにある。この原点に立ち戻り、新しい産業のインキュベーション投資と経営支援に自らの立ち位置を変えれば良いと私は考える。実際、私は10年以上も前から拙著「ブランドで競争する技術」(ダイヤモンド社)で、繊維商社はトレードから投資会社へ業態転換せよと説いてきた。三菱商事と伊藤忠商事は、そのようにしており高い利益率をあげている。時効だから申し上げれば、私は三菱商事に大変お世話になり、ともに子会社再建をやり、商事系の投資ファンド丸の内キャピタルとも組んで企業再建を手がけてきた。伊藤忠商事と大手スポーツアパレルの統合戦略のお手伝いをしたこともある。総合商社双日に至っては、ともに戦い、子会社再建に3年をかけ奇跡の黒字化を達成した。私は、商社と一緒に産業再編をしてゆく中、商社に無限の可能性を信じているのはこのような経験からだ。

  また、日本の素材メーカーは、衣料品用途でなく産業資材用途に舵を切り直し、途上国向け繊維製品の可能性を考えるべきだという提言もしてきた。実際、日本の某大手合繊メーカーは、カーヴ・アウト(本業でない事業を切り離す金融用語)を行って選択と集中を行っている。

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