ライフウェアは完成形に!+Jが可能にするユニクロ全方位戦略のすごさ
ジルサンダーつながりで、巨頭オンワード樫山の話をする理由
ここからは、日本アパレル東西の巨頭、オンワード樫山とワールドの強みと功績を挙げて、ファーストリテイリングの躍進は果たしてどこから生まれてきたのか、について冷静に分析していきたい。ユニクロだけを絶賛し、変革の苦しみの途上にある両者を全否定する論調は、誤りだ。
さて、ジルサンダーつながりで、まずはオンワードと商社の話をしたい。
実は、「ジルサンダー」という商号は、2014年以降オンワードホールディングスが保有しており、グローバルで販売を行っていたことは意外と知られていない。だが、2021年3月6日付けの繊研新聞によると、オンワードイタリアが持つジルサンダー(企業名)の全株式を、ディーゼルなどを保有するイタリアOTB社に譲渡し、その歴史を静かに閉じたようだ。
オンワードホールディングスといえば、名門企業、オンワード樫山である。同社は、われわれバブル世代にとってみれば、今でいえば「ファーストリテイリング」となんら変わりはないほどのビッグネームである。私の出身商社である日鉄物産(旧イトマンという名前をあえて使いたい)は、オンワード樫山とともに育ち、ともに日本一となった。私はその海外のニット糸を世界中から調達する仕事をし供給していたが、当時のオンワード樫山の戦略は極めて斬新かつ大胆なものだった。
同社の戦略は、「世界で最も良質な素材(イタリア糸)を、世界で最も工賃の安い場所(中国)で作り、世界で最も高く売れる場所(日本)で売る」というものだった。当時、私が所属していた商社は、生産拠点を日本から海外に移転し、素材から製品組み立てまでを世界のどこでも生産できるノウハウを持つ人材とノウハウをもっていた。そこでは、今では考えられないほどのダイナミックな世界最適調達を行い、複雑な貿易障壁をものともせず、オンワード樫山がそれを受けて市場で販売するという共同作戦で、
樫山は、横文字ばかりのブランドの中で、おそらく日本初となる漢字によるブランド名「組曲」を1992年に発表し、日本人の度肝を抜いた。また、今井美樹をイメージキャラクターに起用してテレビCMを流し、多くの女性が憧れるブランドとなった。こんな素晴らしいブランドの仕事ができることに私は興奮し、破産した企業で途方に暮れていたことなど忘れていた。
戦後最大の経済事件と呼ばれる90年のイトマン事件後、同社の収益部門は大手商社に人員ごと引き抜かれてバラバラに解体された。当時イトマン海外繊維部にいた私は、全世界から送られてくるテレックス(当時、総合商社は海中回線を引いて世界中のオフィスと通信をしていた)に書かれた
「無念、本支店は本日を持って閉鎖」
の書類を悲しみに暮れながら先輩の席に配っていた。しかし、私達は、その後、若い力を持つ先輩達とともに知恵と力を絞り、名門商社イトマンを復活させ、オンワード樫山躍進を再び支えたのである。
※経営悪化したイトマンを買収し繊維部門を加えた住金物産は、2006年東証一部へ上場を果たす。住金物産はその後日鐵商事と合併し日鐵住金物産となり、19年に日鉄物産に商号変更され現在に至る
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