ユニクロの「棚割り」に見るインクルーシブMDへの“覚悟”

小島健輔 (小島ファッションマーケッティング代表)

最近のアパレル業界は、在庫を抑制して消化歩留まりを高める「在庫適正化」が流行りだが、「売り切り」を志向すれば「欠品」が頻発するのは必定で、値引きや残品を抑制する一方で少なからぬ顧客を切り捨てることになる。その一方で、ユニクロは『欠品は犯罪だ!』と言い切って、相応の値引きや残品を覚悟で多段階に在庫を積み上げ、国内だけで1兆261億円も売り上げて(2025年8月期)、衣料消費の11.6%を占め、12%に迫ろうとしている。コロナ前(19年8月期)の推定シェアは9.5%だったから、コロナを経て6年間でシェアを1.1ポイントも伸ばしたことになる。
在庫を抑制して「売り切り」に走るアパレル業界と、在庫を積んで「売り足し」に注力するユニクロ。マーケットはどちらを支持したか、如実にわかる数字ではないか。この両極の在庫政策が「売り切り志向」のエクスクルーシブ政策と「売り足し志向」のインクルーシブ政策であり、MDの組み方もVMDの見せ方もはっきりと分かれる。

※エクスクルーシブ(exclusive)とインクルーシブ(inclusive)⋯⋯エクスクルーシブは排他的・独占的、インクルーシブは包括的・開放的という意味で、顧客の間口を絞るか広げるかというマーケティング&マーチャンダイジングの基本政策を分ける。

エクスクルーシブ政策とインクルーシブ政策

 エクスクルーシブ政策ではマーチャンダイジングの間口も在庫も顧客も絞り、売上を犠牲にしても在庫効率を高めて収益を確保せんとするが、インクルーシブ政策ではマーチャンダイジングの間口も顧客も広げ、ロスを恐れず在庫を積んで売上の最大化を図る。

 アパレル業界のマーケティングは、「消費者より作り手の方が情報の感度が高い」という「非対称性」を前提に付加価値を創造して利益を得る発想が長く通底していた。だが、2001年のブロードバンド革命、2008年のiPhone上陸を経てネットとSNSが情報を民主化するにつれ、ファッション誌の影響力が衰退して非対称性の上に成り立っていた「ファッションシステム」が崩れ、SNSを軸にインフルエンサーや販売スタッフが顧客と対称に交信するOMOな(店舗とネットが一体化した)パーソナルマーケティングに移行している。

インクルーシブMDを最も極めた企業がユニクロだ

 そんな情報の民主化が進行していくにつれ、マーチャンダイジングもエクスクルーシブからインクルーシブへ変化が求められたが、インクルーシブなマーチャンダイジングは在庫負担が重いため、アパレル業界の大勢は未だエクスクルーシブなマーチャンダイジングに依存したままだ。我が国では、インクルーシブ政策で先行したユニクロが国民的ブランドとなって今やグローバルな覇権を争っている。米国でも過激エクスクルーシブ政策が行き詰まったアバクロ(Abercrombie&Fitch)がインクルーシブ政策に一転して業績が急回復するなどマーケットの変化は明らかだが、アパレル業界は現実から目を背けている。

 コロナ以降、台頭が著しいD2C(卸や直営店に頼らずSNSを活用してEC主体に顧客に直販する)アパレルは、少量生産の売り切りを前提とするエクスクルーシブ政策を採るケースが多く、yutoriやHUMAN MADEのように急成長してIPOする成功例も見られる。だが、事業スケールは数十億円から百数十億円(M&Aを駆使したり、販路を海外に広げても数百億円)と限られ、千億円単位(グローバル市場では兆円単位)でシェアを争うインクルーシブなメジャーSPAとは土俵が異なる。

 1990年代からDXとハブ・コンビナートによる南欧圏内短納期生産体制を確立したインディテックス(ZARA主体)のような例外はあるが、少量生産の売り切りMDは高収益が期待できても事業スケールに限界がある。メジャーな事業規模を求めるなら色・サイズのSKUを広げ、在庫を積んで売り足していくインクルーシブMDを確立する必要がある。では、エクスクルーシブ政策とインクルーシブ政策でMDと補給はどう違うのだろうか。

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記事執筆者

小島健輔 / 小島ファッションマーケッティング 代表

小島ファッションマーケティング代表取締役。洋装店に生まれ、幼少期からアパレルの世界に馴染み、業界の栄枯盛衰を見てきた流通ストラテジスト。マーケティングやマーチャンダイジング、店舗運営やロジスティクスからOMOまで精通したアーキテクト。

著書は『見えるマーチャンダイジング』から近著の『アパレルの終焉と再生』まで十余冊。

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