ライフウェアは完成形に!+Jが可能にするユニクロ全方位戦略のすごさ
ファーストリテイリングが成し遂げた、真の偉業とは
![「ユニクロとその他」になぜ、これほどの差が生まれたのか](https://diamond-rm.net/wp-content/uploads/2021/02/15a16fc313e6554527f6a2cb596bb8aa.jpg)
ファーストリテイリングは07年、米国ジョーンズ・アパレルグループ傘下の米バーニーズ・ニューヨーク(当時、バーニーズジャパンの経営権は住友商事が持っていた)に対し1000億円以上の価格提示を行いドバイの投資会社イスティスマールとの買収劇を演じ、日本で「ユニばれ」(ユニクロを着ていることがばれると恥ずかしいという意味)などと揶揄されてきた状況から脱却しようとしてきた。しかし、無念にもこの買収劇は敗北で終わった(その後、米バーニーズは2019年に経営破綻する)。
こうした歴史から同社は、M&A(合併・買収)によるファッション衣料への進出から、一気に方向転換したのではないだろうか。
従来の「ベーシックかファッションか」という根拠なくわれわれが盲信し続けてきた二元論に対し、「そもそも人にとっての服とは何か」という哲学的問いをわれわれに課した。自らを「ライフウエア」と定義づけ、今までの常識とは異なる発想による施策、つまり、日本のアパレルが遵守してきた「1ブランド・1セグメント」を打ち破り、1ブランドですべての層を満足させるNo age No sex、No taste戦略を体現。ファッションでもベーシックでもない第三軸をつくり上げたというわけだ。そして、「しょせんは、肌着と下着の店」といわれてきた汚名を晴らしたのである。
実は、ジルサンダーと聞いて最初に「なるほど」と感心したのは、ジルサンダー(とセオリー)のデザインは非常にシンプルで、デコラティブ (装飾性が高い)でないものだったからだ。ユニクロというブランドが正常進化していった先に僭越ながらジルサンダーやセオリーの姿が見えたのである。
そして、この全方位戦略は、今までとは考えられないほどの破壊力を持つことになる。いわゆる従来のセグメンテーションで言うところの「ベーシック・機能衣料」をユニクロとすると、エレガンス・フォーマル領域をビジネススーツ、フォーマルウエア、ファッション領域をデコラティブ(装飾的)、そして、子供服までも手がけ、もはやユニクロは全ての衣料品をカバリングしていることになる。こんなブランドは日本にはない。あるとしたら無印良品だろう。従来の定石は、ブランド・ポートフォリオといって、1000億円規模のアパレル企業が、20〜30の異なるセグメントの複数ブランドを分散させてトレンドの不確実性に対応するというものだったからだ。
無論、ユニクロ躍進の背景には、グローバルSPAの日本上陸や社会不安からくる人々の衣料品に対する支出低下 (1990年の世帯別年間支出、約30万円が2019年は14万円以下に落ちた)なども無関係ではないだろう。また、いわゆるニューノーマルといわれる、オンとオフの境目がなくなる日本人のライフスタイル変化も、同社のプレーンなデザインを広めるトリガーとなったように思う。しかし、こうした背景的な後押しがあったとしても、柳井正氏の経営者としての先見性とマーケティングセンス、そして、何より一貫した哲学は素晴らしいと言える。
早くも3刷!河合拓氏の新刊
「生き残るアパレル 死ぬアパレル」好評発売中!
アパレル、小売、企業再建に携わる人の新しい教科書!購入は下記リンクから。
河合拓のアパレル改造論2021 の新着記事
-
2022/01/04
Z世代の衝撃#4 Z世代を追えば敗北必至!取るべきトーキョー・ショールーム・シティ戦略とは -
2021/12/28
Z世代の衝撃#3 既存アパレルが古着を売っても失敗する明確な理由とは -
2021/12/22
インフルエンサー・プラットフォーマー「Tokyo girls market」驚異の戦略とは -
2021/12/21
プラットフォーマー起因の歪な過剰生産が生み出す巨大ビジネス、SheinとShoichi -
2021/12/14
Z世代の衝撃#1 ライブコマースで「インフルエンサー・マーケティング」が失敗する衝撃的理由 -
2021/12/07
TOKYO BASEがZ世代から支持される理由と東京がショールーム都市になる衝撃
この連載の一覧はこちら [56記事]
![河合拓のアパレル改造論2021](https://diamond-rm.imgix.net/wp-content/uploads/2021/02/apparelremodeling2021_main-noresize.jpg?auto=format%2Ccompress&ixlib=php-3.3.0&s=63297c09c0b1457c7908f9680785a5b7)
ファーストリテイリング(ユニクロ)の記事ランキング
- 2024-07-12値下げ率大きいユニクロと値下げ率小さいしまむら どちらが高収益?
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2021-05-04大丸、三越伊勢丹…誰も語れない百貨店分析 政府の施策が百貨店を殺す「本質的理由」
- 2024-07-24拝借スペックのPBでは生き残れない!GMS衣料品は自前開発を決意せよ
- 2021-03-05ビジネスは「一勝九敗」 ファーストリテイリングを世界的大企業に導いた“柳井哲学”
- 2024-06-29ファストリ12 兆円越え!上場小売業時価総額&ROA ランキング2024
- 2024-01-09ユニクロに負けずに利益を上げる!アパレル2024年「5つの論点」解決策とは
- 2022-01-11ZARAとユニクロだけがなぜ余剰在庫を撲滅できるのか?本人達も気づいていないメカニズムとは
- 2022-03-08アパレルはテック企業になる!10年後ユニクロに孕むリスクと世界地図の激変とは
- 2024-02-21ファストリ業績絶好調も…日本の大衆から乖離するユニクロはどこへ行く?
関連記事ランキング
- 2024-06-25「パリコレ」にアパレル業界人が行かなくなった理由
- 2024-07-02日本人が大好きな衣料品セール 安く買うのが難しくなる理由とは
- 2024-07-23ユニクロに通じる…ファミマが検討中の衣料専門店が「台風の目」になる理由
- 2024-06-19インバウンドで最高益続出!日本人が知らない「百貨店の価値」とは
- 2024-07-09あなたの会社も要注意!「善意の行動」が仕組みを破壊するメカニズム
- 2024-06-11日本人の服がこの10年で「ペラペラ」になった本当の理由
- 2023-01-06SHEIN TOKYO「売らない店」現地レポート!担当者が明かす、低価格3つの理由とは
- 2024-07-12値下げ率大きいユニクロと値下げ率小さいしまむら どちらが高収益?
- 2024-07-16ユニクロ式多頻度・小幅値下げとシーズン末大セール、どちらが得か
- 2023-08-08EC時代にスクロールとベルーナだけ好調 生き残るカタログ通販、死ぬカタログ通販
関連キーワードの記事を探す
拝借スペックのPBでは生き残れない!GMS衣料品は自前開発を決意せよ
ユニクロに通じる…ファミマが検討中の衣料専門店が「台風の目」になる理由
値下げ率大きいユニクロと値下げ率小さいしまむら どちらが高収益?
拝借スペックのPBでは生き残れない!GMS衣料品は自前開発を決意せよ
値下げ率大きいユニクロと値下げ率小さいしまむら どちらが高収益?
ファストリ12 兆円越え!上場小売業時価総額&ROA ランキング2024
あなたの会社はいくら?いよいよ始まるアパレル大買収時代と正しいデューデリジェンスの手法
なぜあなたの会社は利益が出ないのか? 間違ったKPIが企業を窮地に追い込む実態
全産業中ワースト2位の不都合な真実、アパレル業界の環境破壊と人権問題を解決する方法