ライフウェアは完成形に!+Jが可能にするユニクロ全方位戦略のすごさ
ファーストリテイリングが成し遂げた、真の偉業とは

ファーストリテイリングは07年、米国ジョーンズ・アパレルグループ傘下の米バーニーズ・ニューヨーク(当時、バーニーズジャパンの経営権は住友商事が持っていた)に対し1000億円以上の価格提示を行いドバイの投資会社イスティスマールとの買収劇を演じ、日本で「ユニばれ」(ユニクロを着ていることがばれると恥ずかしいという意味)などと揶揄されてきた状況から脱却しようとしてきた。しかし、無念にもこの買収劇は敗北で終わった(その後、米バーニーズは2019年に経営破綻する)。
こうした歴史から同社は、M&A(合併・買収)によるファッション衣料への進出から、一気に方向転換したのではないだろうか。
従来の「ベーシックかファッションか」という根拠なくわれわれが盲信し続けてきた二元論に対し、「そもそも人にとっての服とは何か」という哲学的問いをわれわれに課した。自らを「ライフウエア」と定義づけ、今までの常識とは異なる発想による施策、つまり、日本のアパレルが遵守してきた「1ブランド・1セグメント」を打ち破り、1ブランドですべての層を満足させるNo age No sex、No taste戦略を体現。ファッションでもベーシックでもない第三軸をつくり上げたというわけだ。そして、「しょせんは、肌着と下着の店」といわれてきた汚名を晴らしたのである。
実は、ジルサンダーと聞いて最初に「なるほど」と感心したのは、ジルサンダー(とセオリー)のデザインは非常にシンプルで、デコラティブ (装飾性が高い)でないものだったからだ。ユニクロというブランドが正常進化していった先に僭越ながらジルサンダーやセオリーの姿が見えたのである。
そして、この全方位戦略は、今までとは考えられないほどの破壊力を持つことになる。いわゆる従来のセグメンテーションで言うところの「ベーシック・機能衣料」をユニクロとすると、エレガンス・フォーマル領域をビジネススーツ、フォーマルウエア、ファッション領域をデコラティブ(装飾的)、そして、子供服までも手がけ、もはやユニクロは全ての衣料品をカバリングしていることになる。こんなブランドは日本にはない。あるとしたら無印良品だろう。従来の定石は、ブランド・ポートフォリオといって、1000億円規模のアパレル企業が、20〜30の異なるセグメントの複数ブランドを分散させてトレンドの不確実性に対応するというものだったからだ。
無論、ユニクロ躍進の背景には、グローバルSPAの日本上陸や社会不安からくる人々の衣料品に対する支出低下 (1990年の世帯別年間支出、約30万円が2019年は14万円以下に落ちた)なども無関係ではないだろう。また、いわゆるニューノーマルといわれる、オンとオフの境目がなくなる日本人のライフスタイル変化も、同社のプレーンなデザインを広めるトリガーとなったように思う。しかし、こうした背景的な後押しがあったとしても、柳井正氏の経営者としての先見性とマーケティングセンス、そして、何より一貫した哲学は素晴らしいと言える。
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