ユニクロが「流行を身にまとう」呪縛から解き放ったといえる理由とアパレルの特殊性
日本のアパレルが海外に出ていかずとも生き残れた理由
しかし自動化でなく、産地移転の代償は大きい。
私がまだ若かった頃、ビジネススクールでオリックスの宮内義彦社長(当時)の授業を受けたことがある。当時、繊維の仕事しかしたことがなかった私は、「日本の輸入税は撤廃すべきだ」と発言した(私は今はその発言が正しいとは思っていない)ところ、宮内社長は「日本に輸入税など存在しない。日本は世界に開かれたマーケットだ」とおっしゃり、私が当時繊維製品に10%から15%の輸入税がかかることを見せたところ、驚いていたのを思い出す。
なぜ、繊維製品だけに(正確にはそれ以外にも革製品など輸入障壁がある産業はある)高額な輸入税がかかるのかといえば、海外のディスカウンターなどから国内産業を保護するためである。
経済発展の初期段階で必ず繊維産業が現れる。そして冒頭で述べたとおり、無くなりもしないし、進化もしない。しかし、国のGDPが上がっていけば、繊維産業は、新しい途上国に奪われ壊滅状態になっていく。だから、繊維(および関連)製品だけにいまなお輸入税がかかるのだ。
私は、この仮説を検証するため、当時多くの国の輸入税を調べたことがあったが、先進国ほど繊維製品に対して輸入税がかかっていた。
そこに例外はなかった。これは、どの国も繊維産業で初期段階の経済発展を通り、そのまま浦島太郎のように時がとまり今に至る。その穴埋めとして輸入税が掛けられるわけである。
そして、繊維・アパレル製品のもの作りは安い人件費を求めて世界をさまよい、商品価格のグローバル化は進む。一方で日本のアパレル企業における「マーケット」は国内だけになっていった。今でこそユニクロが世界中からマネタイズしているわけだが、それでも世界で日本のファッションといえばユニクロ一社、かろうじて無印良品を想起するにとどまっている。
日本は完全にアパレル製品の「消費国」になりつづけ、ほとんどのアパレル企業は極論をいえば毎年同じことをやっており、デジタルディスラプト(デジタル技術によって産業が破壊されること)のようなことは起きずにいる。
日本という国は、ドイツに抜かれたとはいえ世界第4位の経済大国ではあるが、その理由の大部分は大きな人口にある。国のGDPは「一人当たりGDP x 人口」で表すことができ、実は一人あたり(per Capita )にすると、日本はたかだか30位ぐらいなのである。
つまり、国内にそれだけ服を着る人が多く、海外からの輸入品に高額な税金が掛けられていれば、日本のアパレルは日本人向けだけでビジネスをやっていれば商売が成立するということになる。
これが、日本のアパレルが「国際化しない」理由だ。
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