無慈悲な競争力の源泉は?コスモス薬品、進む地域完全制圧と付け入る死角

雪元 史章 (ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長)
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「変わらない」ことのリスクも

 さて、ブレることのない完成された戦略を推進するコスモス薬品だが、死角はないのか。ある業界関係者は、「すべてのことが標準化されているゆえに、簡単に変わることができない」ことをコスモス薬品の弱みとして指摘する。既定路線から逸脱することが認められないという企業文化が存在するため、「新たな機軸のビジネスモデルに挑むことは難しい」(同関係者)というわけだ。生鮮導入の難しさについても、同じ文脈で語ることができるだろう。

 また、商品・販売戦略において価格が「絶対最優先」とされる点に、疑問を呈する声も聞かれる。原材料の高騰などにより、小売・外食業界では値上げに踏み切る企業も増えているが、そのなかでも「地域いちばんの低価格を維持する努力を続けた」と横山社長。さらには、「消費者のために1円でも安く商品を販売すること、その努力を怠らないことこそが、小売業の使命だ」とも強調した。

 ただ、コスモス薬品と価格交渉を日々行っているメーカーの心境は複雑だ。本特集ではメーカー関係者へのヒアリングも試みたが、「応じるリスクが高すぎる」として軒並み取材NG。唯一コメントを寄せてくれたメーカー関係者によると、「とにかく価格に対する要求がシビア。営業担当が受けるプレッシャーは半端ではない」という。そうした「メーカー・卸の穏やかならぬ関係性は、今後の経営上のリスクにもなり得る」(業界関係者)と見る向きもある。

コスモスを「学ぶ対象」としてとらえる

 そうした死角もあるとはいえ、コスモス薬品が今後も各地でマーケットシェアを高めていくであろうことは確かだ。2000㎡という広い売場で食品・非食品を豊富な品揃えと圧倒的な低価格で販売し、それを自社競合もいとわず出店し続ける “攻めの姿勢”を前に、競合するSMやDgSはどのような策を講じればよいのだろうか。

 まず1つは、コスモス薬品のビジネスモデルとは一線を画した自社の強みを打ち出すこと。これについては多くの企業が進めているだろう。コスモス薬品にはない強みを生かすことで、競争に勝っている、あるいは地域でコスモス薬品の存在感を極限まで低下させることに成功している事例も本特集では詳細に解説する。

 それに加えて、本誌が提案したいのは、コスモス薬品を「ベンチマーク」する存在としてみることである。コスモス薬品の緻密な売場管理の手法、(多くの業界関係者はそう認識していないかもしれないが)レベルの高い接客・コンサルテーション、大量・高速出店が可能なフォーマットの設計、そしてそれを実現するための組織体制や風土づくり、やらないことの明確化とその徹底──。自社のビジネスを強化・革新していくためは、コスモス薬品から学べることも多いのではないか。

 本特集では、コスモス薬品を企業、店舗、商品、顧客評価などさまざまな切り口でとらえ、強みと課題をあぶりだした。その内容を通じてコスモス薬品を深く理解し、自社の革新につなげていただきたい。

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記事執筆者

雪元 史章 / ダイヤモンド・チェーンストア 副編集長

上智大学外国語学部(スペイン語専攻)卒業後、運輸・交通系の出版社を経て2016年ダイヤモンド・フリードマン社(現 ダイヤモンド・リテイルメディア)入社。企業特集(直近では大創産業、クスリのアオキ、トライアルカンパニー、万代など)、エリア調査・ストアコンパリゾン、ドラッグストアの食品戦略、海外小売市場などを主に担当。趣味は無計画な旅行、サウナ、キャンプ。好きな食べ物はケバブとスペイン料理。全都道府県を2回以上訪問(宿泊)。

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