商社の脱OEM戦略がことごとく失敗する理由と商社3.0の新たなビジネスモデルはこれだ!

河合 拓
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商社マンの高年収が商社自身の存在を脅かす理由

MinnaRossi/istock
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 「昔軍隊、今商社マン」「人工衛星からカップラーメンまで」「買う前に売れ、売る前に買うから企業は倒産する」「在庫は悪だ。企業は在庫で倒産する」

 このように当時の商社を表す言葉、商社用語は山のようにあり、その神秘的響きと当時のサラリーマンの中では別格の高い年収から、優秀な学生の就職先トップランキングに常に名を連ねていた。今でも、私のビジネスの原点は、この商社イズムが根底にある。

 しかし、その商社マンの高年収こそ、商社自身の存在を脅かすものだった。なぜなら、中間流通として、製造業と小売業の間に入り、海外から製品を輸入し日本の小売企業に売る、あるいは、日本の製造業の製品を世界の小売業に売って、人件費に見合った利益を上げるには一定の物量が必要だからだ。例えば、一時は8000億円まで売上があった、イトマン (私が新卒で入社した会社) では、一人あたり営業マンの利益は6000万円がブレークイーブンといわれてきた。

  衣料品の単価は、1990年の約6800円をピークに、現在では約3200円にまで下がっている(出典:環境省サステイナブルファッションホームページ)。そうなると、仮に売上の20%を商社がマージンとして抜いたとしても、1枚あたり600円に過ぎないから、商社の事業を成立させるためには、年間10万枚の商品をさばかねばならない。大手であれば、さらに損益分岐点は上がるだろう。

  考えてもらいたい、アパレルはQR(クイックレスポンス)一神教で、計画値が3000枚でも、1000枚を3回にわけて小刻みに投入する。この旧来からあるリテールテクノロジーは、アパレルSPA(製造小売)にはそぐわないにも関わらず、こうした産業別の特性を理解せず、牛乳や加工食品の仕入と服のSPAの仕入を同じテーブルで考えるから、“消費が荒れ”て損失の山になるのだ。

 いまではワールドやアダストリアが元商社マンを生産部に採用している。それによって、商社の隠し口銭のカラクリがすべて明らかされたため、商社はマージンとして20%も抜けなくなってしまい、とうとう、国内は3%、海外は10%で優等生という具合になった。

 余談ながら、あの大手アパレルの通し口銭は1.5%といわれている。つまり、一人で20万枚。3人でチームを組めば60万枚〜100万枚の物量を扱わなければ、商社の高額な人件費をまかなうことができなくなったのだ。

 そこで商社は、アパレル企業のOEMを担う、「オペ専」(オペレーション専門)と呼ばれる、人件費の安いパートやバイトなどを採用した固定費の低い子会社を山のようにつくった。「オペ専」に業務をやらせて、成果報酬型を採用することでインセンティブを保つ一方で、商社マンは生産性を上げるためにM&A(合併・買収)やリテール強化、デジタル戦略などに資源を振り切っていったのである。

 こうしたサブコン(下請け)化は、流通だけでなく、工場にもおきていた。商社もマーケットからの強いコストプレッシャーにより、工場に強烈なコスト削減を押しつけ、ついには工場もサブコン化を進めたのである。こうしたサプライチェーンの「コンプレキシティ」(複雑化)は、ユニクロをはじめとする、ZARAH&Mなど大手企業の「規模の経済」による低下価格化の影響である。

 まさに、先日行われた有識者会議に出席したとき、この世界のアパレルによる「規模の経済」のコストの圧倒的な低下が引き起こす競争力強化という名のコストプレッシャーが、途上国の縫製工場をいじめている(ラナプラザ倒壊事件)のだという議論があった。
 日本のせいぜい100億円規模の中間価格帯アパレルが、ブレークイーブンを下回る値引きをせざるを得ない状況などを、多くの識者が理解していないことに驚いた。今、経済と競争を無視して環境問題は語れないのに、彼らは、経済と環境破壊に全く無知でありながら、理想論を議論している。

 環境問題だけにフォーカスしても、それは絵に描いた餅だ。こうしたエコノミクスと離れて、空想の世界で理想論を語ってもダメだと言うことを理解してもらいたい。私たちはキャピタリズムの世界で生きているのだ。

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