三越伊勢丹HDが「クイーンズ伊勢丹」を買い戻した理由

棚橋 慶次
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「半身の構え」だった丸の内キャピタル

 かつて経営難に陥った成城石井(神奈川県/原昭彦社長)を立て直した実績を買われ、クイーンズ伊勢丹の運営を引き継いだのが丸の内キャピタルだ。ただし、2011年当時、丸の内キャピタルはレインズインターナショナルから成城石井の全株式を買い取っている。

 言い換えれば、丸の内キャピタルは成城石井を完全子会社に置いたからこそ、経営再建に成功した。丸の内キャピタルとしても本腰を入れて成城石井再生に取り組み、三菱商事ひいては三菱グループとの連携も円滑にすすんだ。そして3年後の2014年、成城石井はローソン(東京都/竹増貞信社長)に事業譲渡されることになる。

 ではクイーンズ伊勢丹はどうか。エムアイフードスタイルの経営体制からして本気度が感じられるものとはいえなかった。確かに新体制のスタート時は、丸の内キャピタルから派遣された遠藤久氏が社長に就任した。

 遠藤氏は日本マクドナルドにおいてチェーンオペレーションや店舗開発を経験、その後は、ファンドのもとですかいらーくの経営再建にもたずさわっており、その手腕は大いに期待された。

 遠藤氏本人も当時、「スーパーマーケット業界に新しい風を吹き込みたい。スーパー業界とは違う視点で顧客に価値を訴求していける、新しい事業モデルを構築したい」とメディアに抱負を語っている。

 ところがいつの間にか、社長は伊勢丹生え抜きの雨宮隆一氏に交代。遠藤氏は現在、高級レストランで知られる「ひらまつ」の社長に転身している。この交代劇にどのような力学が働いたのか。そもそも、「クイーンズ伊勢丹経営再建のめどはついた」とする三越伊勢丹HD公式リリースを額面通り受け取ってもいいのだろうか。

厳しい競争が続く高級スーパー事業

 三越伊勢丹HDが抱える最優先の経営テーマは、本業である百貨店ビジネスの再生だ。

 低迷が続く地方店舗の立て直しと地域間連携、外商の強化、EC販売とリアル店舗のクリック&モルタル、経費・要員のコントロールを軸とした収支構造の改善……と取り組むべき課題は多い。高級スーパー事業に多くのヒト・モノ・カネを割く余裕はない。

 事業分割・譲渡のメリットは、経営・事業運営の自律性が高まることにある。クイーンズ伊勢丹に限らず、大企業グループ内の非コアビジネスは、優秀な人材が配置されない、マーケティング投資や設備導入も後回しにされる、といった具合に苦汁を飲まされることが多い。だからこそ、事業譲渡によってファンドの傘下に入った途端に現場が活性化し、見違えるほど成長するといったドラマが起こりうるのだ。

 高級スーパーの御三家とされる「成城石井」「紀伊国屋」「クイーンズ伊勢丹」のうち、近年は成城石井が頭一つ抜けて成長している。買い戻されたクイーンズ伊勢丹が劣勢を挽回できるのか、まずは新体制の経営手腕に期待したい。

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