アングル:ノンアルビール、「コロナ明け」機に大手が販売攻勢

ロイター
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ニューヨークで行われたハイネケンのノンアルブール試飲ベントのスタンド
7月20日、欧米で新型コロナウイルスの制限措置が緩和され、酒好きの人たちはビールやワインを片手に祝っているかもしれないが、大手ビールメーカーが消費者に今売り込もうとしているのはノンアルコールビールだ。写真は15日、ニューヨークで行われたハイネケンのノンアルブール試飲ベントのスタンド(2021年 ロイター/Joyce Philippe)

[ブリュッセル/ニューヨーク 20日 ロイター] – 欧米で新型コロナウイルスの制限措置が緩和され、酒好きの人たちはビールやワインを片手に祝っているかもしれないが、大手ビールメーカーが消費者に今売り込もうとしているのはノンアルコールビールだ。

アンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ)やハイネケンなどビール大手は、クラフトビール(小規模な醸造所が作る地ビール)やハードセルツァー(アルコール入り炭酸飲料)に市場シェアを奪われており、新世代ノンアルビールで健康志向の流れに乗り、挽回を図る構えだ。

コロナ禍中は取引先とランチをすることがなくなり、スポーツ施設は閑散、パーティーやバーから車で帰宅する人もいなくなり、ノンアル飲料は主な消費の場を失った。市場調査会社ユーロモニター・インターナショナルによると、世界のノンアルビールの売上高は2019年まで4年間にわたり年平均9%の伸びを続けていたが、2020年は116億ドル(1兆2700億円)と4.6%の減少に転じた。

だが、米国と欧州で行動制限が撤廃され、ビールメーカーは売れ筋ブランドのノンアル版を消費者に試飲してもらいやすくなった。メーカーはこうした取り組みが売り上げアップに欠かせないと確信している。

米国でハイネケンブランドのマーケティングを担当するボルジャ・マンソサリナス氏は「主な障壁は消費者の思い込みだ。つまり、おいしいとは期待されていない」と打ち明ける。

ハイネケンはこの「壁」を打ち破るためにマンハッタンで今月、ノンアルビールの試飲イベントを開催。近くのスタンドで普通のハイネケンを購入して飲み比べたカーリー・ハインツさんは「自分には違いが判らない。本当の酒飲みだけど」と話した。

かつてノンアルビールの多くは、熱処理によってアルコールを蒸発させて製造され、風味が損なわれていた。今ではメーカーの多くが真空室を使って低温でアルコールを取り除いており、製造の過程で失われてしまった、風味の素である有機化合物を再び加えることもある。

ハイネケンは19年に米国でノンアルビール「ハイネケン0.0」の販売を開始。昨年は1000万缶を試飲用に配る計画だったが、コロナ禍のせいで半分以下にとどまった。

同社は、今年は試飲が元の軌道に戻るとみており、オフィス向けだけでも400万缶程度を配布する。音楽フェスティバルや集合住宅、ショッピングモール向けにも試飲を行う予定だ。

ビール最大手ABインベブも1年前に、看板商品であるバドワイザーのノンアル版の米国販売を開始した。同ブランドのグローバルマーケティング担当、トッド・アレン氏は「ずっと昔から克服すべき壁の1つが風味で、消費者に試してもらうのが本当に重要だ」と指摘した。

大人向けソフトドリンク

市場調査会社SLICEによると、ノンアルビールの消費市場は約4分の3を欧州が占める。スペインではノンアルがビールの全販売の13%に達する。

日本ではビールの売り上げの5%近くがノンアル。メーカーは新しいブランドを立ち上げ、急成長を見込んでいる。

しかし米国はノンアルビールにとって未開の地で、ユーロモニターのデータに基づくシェアはわずか0.5%にすぎない。

IWSRドリンクス・マーケット・アナリシスによると、米国のノンアルビール販売は18年まで3年間にわたって減少が続いたが、19年には増加に転じ、この年が転換点となった。

米国のノンアルビールの販売量は、新製品の投入や健康志向などを追い風に、25年までの5年間に3倍近く増加し、約60%増と予想されている全世界を大幅に上回る伸びとなる見通しだ。この間、国内のビール販売全体は18%減少すると予想されている。

ノンアルビールの成長はビール大手にとって非常に重要だろう。大手はこの数年、クラフトビールとハードセルツァーという2つの敵との戦いに直面しているからだ。クラフトビールは今ではビール市場で約12%のシェアを握っており、ハードセルツァーは16年の発売以来、販売が毎年倍ずつ増えている。

一方、ノンアルビール市場では、大手が後塵を拝するのではなく先頭に立っており、新製品によって中核となるビール市場ではなくソフトドリンクからシェアを奪えるかもしれない。

ノンアル飲料は通常、利益率も高い。製造コストはかさむが、税率が低いためだ。

ABインベブのアレン氏は、ノンアルビール分野は新しくアルコールを楽しむようになった世代の間でパフォーマンスが比較的良好で、これは明らかにプラスなことだと述べた。

メーカーは、ビールが多くのソフトドリンクと違って「自然な」原料で製造されていると強調する。バドワイザーのノンアルキャンペーンも、砂糖を使っていないこと、通常のバドワイザーと比べてカロリーが3分の1であることを訴えている。

メーカーの見立てでは、ノンアルビールの消費者はドライバーや酒を断っている人、妊婦にとどまらない。状況に応じてただ控えているだけの、ほとんどの愛飲家も対象になるからだ。

メーカーはノンアルビールについて、国内のスポーツイベントが販売の好機になるとみている。多くの場合、試合の終盤には酒類の販売が禁止されるからだ。さらに、ノンアルならば新たな領域にも入れる可能性があると考えている。

バースタイン・オートノマスのシニア飲料アナリスト、トレバー・スターリング氏は、メーカーにとって鍵となるのは、ノンアルビールをライフスタイルの選択肢の1つへと進化させることで、例えば単なるビールの代用品ではなく、職場で朝に飲むソーダ飲料に代わって飲まれるようにするやり方がある、と解説した。

「機会は巨大だが実現は難しい。メーカー側は売り出し方も変えなければならない。消費者がアルコールを含まないビールというより、ビール風味のノンアルドリンクや大人向けソフトドリンクとみてくれるように」という。

ハイネケンのドルフ・ファン・デン・ブリンク最高経営責任者(CEO)は、いずれビール市場におけるノンアルのシェアは5%程度に達すると予想する。ユーロモニターのデータでは、昨年の売上高で見たシェアは2%前後だった。

CEOは「この先起こり得る最大の間違いは手綱を緩めること。まだ旅は始まったばかりだ」と自らを戒めた。

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