ZOZOに勝つ!日本のアパレルが「シーイン」になる唯一の手法とは

河合 拓 (代表)
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中身も知らずに、Dholicの無在庫経営を語る呑気な日本人

 私が中国のシーイン、韓国のDholicについて本連載で何度も論考を書いている理由は明快だ。ZOZOとは全く異なる「勝ちパターン」である「無在庫マッチングモデル」を作り上げたからだ。在庫リスクも価格変動リスクもなく、手元資金も不要。キャッシュコンバージョンサイクルはマイナスという資金繰りで、このモデルは盤石だ。しかし、テナント側にしてみれば「蟻地獄」のようなもので、一度足を踏み入れたらもう出られない。売上を大きく下げることができないからだ。結局、テナント側からするとこれは、「蟻地獄」から命からがら這い出てきても、勝つための戦略も何もないために起きる。

 例えば、私は中国のシーインの「無在庫マッチングモデル」を逆にして、日本からやればよいと云っていたが、そんなことはすでにDholicが韓国東大門市場からのD2Cでやっている。ネットで調べていたとき「Dholicの無在庫経営!」などと理由も戦略解説もない呑気な分析をしていた寄稿があったが、なぜ、彼らだけがそういうことができるのか、また、どうすればよいのかという最も大事なところが抜けている。これこそ、冒頭のPDCAができていない証拠だ。今、日本市場に繊維製品を輸入するには10%前後の税金がかかるが、Dholicは、シーインと同じ「クーリエ便」を活用している。それにより、「個配」(個別配送)で、無税で越境ECというかたちで運ばれる。これこそ、本当のD2Cなのである。

 したがって、在庫リスクをもたないのは、持たなくてもよい理由があり、安いのは安いなりの理由があるのである。アパレルの上代を下げるには、損益分岐点を下げるのでなく、「値付けを工夫し、プロパー消化率を上げることだ」ということは、先週、先々週に数式を書いて説明したとおりだ。

シーインモデル導入のために必要な3つの公式とは

Robert Way/istock
Robert Way/istock

 シーインモデルを日本企業がやるためには、以下の公式を覚えておく必要がある。

  1. なにより優良顧客基盤を持つこと(Dholicはいまから5年後の優良顧客をもっている)
  2. 売れない前提で上代を決めるのでなく、売れる価格に下げプロパー販売を基本とする
  3. 海外に出荷するときは、個配で、クーリエ便で送る(国によって異なるが、多くのケースにおいて一人分の荷物は無税)

 理屈は、以上の3つだ。ここにソフトを載せるわけだが、韓国は「Kポップ」をのせ「Kファッション」をつくってくるはずだ。我々は「Jファッション」のソフトをビジネスモデルに載せる。このコンテンツは、まさにブランドの顔となる。今、日本の10代、20代の女子達の80%が「韓国ファッション」と「韓国コスメ」を参考にしているというデータは、先週の論考で見せたとおりだ。これから5年の投資を間違ってはいけない。

 競合は誰になるのか、誰に売って、彼女たち、彼ら達の服に払うお金はいくらで、どういう服を好むのか。今からしっかりとプロジェクト・チームを結成して戦う準備をしてもらいたい。勝っているときこそ手綱を締め、骨太の戦略をつくる時である。本稿に関する討議には喜んで参加するし、お手伝いもしたい。ぜひご検討をお願いしたい。

 

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プロフィール

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

筆者へのコンタクト
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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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