16号線外縁部の“覇者”ヤオコーが、SPA推進でねらう「天下布武」

2023/03/29 05:51
中井 彰人 (nakaja lab代表取締役/流通アナリスト)
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ヤオコーの「天下布武」に立ちはだかるのは……

 首都圏は16号線の内と外で、それぞれ1800万人程度が居住していることがわかっている。そして内側は、人口減少が課題となるこの日本において、ほとんど人口が減らないこともわかっている(図表③)。16号線の外側で5000億円企業にまで成長したヤオコーが16号線内側という同規模のマーケットに展開できるという確信を得れば、その瞬間に1兆円企業への成長は実現可能になるとも言える。

図表③ 国道16号線の内側・外側の将来人口推計(単位:万人)

 それどころか、首都圏という国内最大のマーケット全域に店舗を展開できるなら、初の全国制覇型の食品スーパーとしての成長戦略を示すことも可能になるだろう。ヤオコーが「SPA化」を言葉にしたのは、織田信長の「天下布武」の如く、天下統一の目標を内外に宣言したことにほかならないと筆者は考える。そしてその背景には、SPA化実現の確信を持ったからであろうと勝手に推測するのである。そして、この「天下布武」に立ちはだかるのは、ロードサイド市場における永遠のライバルであるベルク(埼玉県)、そして16号線内の現在の覇者、オーケー(神奈川県)ということになるだろう。

 「ベルクがいなければ、ヤオコーはここまで競争力ある店をつくれなかったのでは」と思わせるほど、ベルクは正に好敵手である。幅広い品揃えを、低価格で提供することで、地元で高い支持があるベルクは、地盤である埼玉県で「よく利用するスーパー」を調査すると、若年層とファミリー層ではトップを占めている。

 郊外での豊かな食生活を相応の価格で提供しているヤオコーは、少し財布に余裕がある中高年層の支持が高く、この両社は首都圏北部を分け合うようにして、共に成長してきた。このことを自ら認識しているヤオコーは、若い層の支持が劣勢であることは将来的に大きな課題であると考えており、最近では価格的にも競争力を高める商品開発をめざしている。M&A(合併・買収)で傘下に加えたディスカウント型スーパー、エイヴイ(神奈川)との連携によるディスカウント業態「Foocot(フーコット)」の展開に打って出たことは業界でも大きな話題となった。

 この戦略こそ、価格訴求もできる業態により、首都圏郊外における若年層でのシェアアップを実現し、持続的な成長を確保するという対ベルク戦向けの布石といってもいいだろう。既存市場である首都圏郊外における、さらなるシェアアップと世代交代への対策を行うことで16号線外側でのさらなる成長可能性をめざしている。

 ディスカウント業態フーコットの滑り出しは順調なようで、今後、検証を繰り返しながら出店数を増やしていくことになるだろう。ただ、支持率の高いベルクが簡単に押し返されるとは考えにくく、ヤオコーとベルクの競争に巻き込まれて、周囲の競合店が影響を受ける可能性が高いと予想される。

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記事執筆者

中井 彰人 / 株式会社nakaja lab nakaja lab代表取締役/流通アナリスト
みずほ銀行産業調査部シニアアナリスト(12年間)を経て、2016年より流通アナリストとして独立。 2018年3月、株式会社nakaja labを設立、代表取締役に就任、コンサル、執筆、講演等で活動中。 2020年9月Yahoo!ニュース公式コメンテーター就任(2022年よりオーサー兼任)。 2021年8月、技術評論社より著書「図解即戦力 小売業界」発刊。現在、DCSオンライン他、月刊連載4本、及び、マスコミへの知見提供を実施中。起業支援、地方創生支援もライフワークとしている。

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