インストア加工か、センター加工か?「SPA推進部」を新設するヤオコーの深謀

2023/03/24 05:52
中井 彰人 (nakaja lab代表取締役/流通アナリスト)
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「SPA」といえば、一般的には製造小売業(商品の企画から、生産、販売までの機能を垂直統合した小売業)のことを指し、ファーストリテイリング(山口県)、ニトリ(北海道)、良品計画(東京都)、西松屋チェーン(兵庫県)などに代表されるような、高い競争力を持った流通業の“勝ち組的”ビジネスモデルとして知られている。
サプライチェーンにおける関係者の利害が、統合されることによって、無駄なコストを省き、コストパフォーマンスの高い商品が提供されるため、その競争力は高いのだとされる。最近、この「SPA」という名前を冠した部署を設立して、製造小売業に取り組む姿勢を鮮明にした食品スーパーがある。業界きっての有力企業、ヤオコー(埼玉県)である。

流通アナリスト・中井彰人の小売ニュース深読み

2023年3月から「SPA推進部」が始動!

 2023年1月、ヤオコーは3月付の組織改編で、デリカ事業部デリカ・生鮮センター担当部を廃止して、「SPA推進部」を設置。部内に東松山と熊谷のデリカ・生鮮センター担当部が置かれる、というプレスリリースを発表した。

 単なる組織改編のニュースに見えるためか、ほとんどのメディアは注目しなかったが、ヤオコーが置かれた環境を踏まえてみると、スルーできないリリースだと筆者は考える。なぜ、このタイミングでわざわざ「SPA」などという言葉を使う必要があるのか。そもそも食品スーパーにおけるSPAとは何を意味するのか、を考えると妄想が膨らんできた。

 SPA化という方向性を掲げていること自体は、小売業界では珍しいことではなく、食品スーパー、ホームセンター、ドラッグストアの多くがプライベートブランド(PB)比率を上げていくという初期段階の取り組みを行っている。食品スーパーの場合は、いわゆる加工食品に関するPBを開発するというのが一般的だが、イオン(千葉県)やセブン&アイ・ホールディングス(東京都)ほどの規模がない一般的な食品スーパー企業が単独でPBをつくるとなると、量が足りないという問題が出てくる。そのためPBを共同で開発するための「同盟」組織(CGC、ニチリウ・グループ、鉄道系八社会など)を結成するという例も多い。

 ヤオコーも自社でのPB開発には積極的で、その品目も増えつつあるようだが、今回のSPA推進部はデリカ・生鮮センターの統括組織であり、今回の件は「生鮮、総菜に関する製造小売業化」ということでもある。

 だとすれば、このチャレンジが、これまでの食品スーパーの歴史からすれば、大きな転換点であることは業界関係者の方々はすぐにわかるだろう。つまり、ヤオコーは生鮮・総菜に関してインストア加工を基本としながらも、その加工工程の大半を担えるプロセスセンター体制の確立を宣言したということではないだろうか。

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記事執筆者

中井 彰人 / 株式会社nakaja lab nakaja lab代表取締役/流通アナリスト
みずほ銀行産業調査部シニアアナリスト(12年間)を経て、2016年より流通アナリストとして独立。 2018年3月、株式会社nakaja labを設立、代表取締役に就任、コンサル、執筆、講演等で活動中。 2020年9月Yahoo!ニュース公式コメンテーター就任(2022年よりオーサー兼任)。 2021年8月、技術評論社より著書「図解即戦力 小売業界」発刊。現在、DCSオンライン他、月刊連載4本、及び、マスコミへの知見提供を実施中。起業支援、地方創生支援もライフワークとしている。

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