16号線外縁部の“覇者”ヤオコーが、SPA推進でねらう「天下布武」
ヤオコーは2023年1月、3月付の組織改編で、デリカ事業部デリカ・生鮮センター担当部を廃止して、「SPA推進部」を設置することを発表した。筆者はこのニュースを、生鮮・総菜に関してインストアオペレーションに依存しないでも、今の品質を維持できるセンター加工体制をめざすという、ヤオコーの宣言と考える。
本稿前編では、食品スーパー企業がセンター加工を推進しなければならない事情について解説した。後編では、ヤオコーがセンター供給体制を急ぐ理由について考えてみたい。
16号線外縁部の覇者がさらなる成長戦略を描くには……
前編で解説した背景とは別に、ヤオコーにはセンター供給体制を早期に立ち上げなければならない事情があった。それには、ヤオコーが首都圏16号線外縁部の覇者であることが大きく関係している。首都圏外縁部で“勝ちパターン”を確立したヤオコーが今後、さらなる成長戦略を描くためには、16号線の内側においてもシェアを獲得していく必要がある(図表①)。

しかし、現在の店舗フォーマット(広い駐車場、600~700坪の売場面積、インストア加工、できる限り近隣型商業施設タイプで集客力を補完……)のまま16号線内側への出店を本格化しても、ヤオコーが理想とする投資回収モデルが成立しない、と筆者は推測する。
10年以上前から都市型フォーマットの確立を目標に掲げてきたヤオコーは、16号線内側にもいくつかの出店を行って実験を続けてきたように見受けられるが、その出店ペースは遅々として進んではいない。これは店舗フォーマットの調整だけでは、彼らの求める結果は得られなかったということであり、ヤオコーは、センター加工をベースとしたインフラを再構築すること(≒SPA化)によって、本源的な収益構造の変革に踏み切ることを決意表明したのだと筆者は見る(図表②)。

16号線の内側で、都下、神奈川東部に進出しようとする場合でも、小型化するだけではヤオコーならではの品揃えが保てず、競争力を削ぐ結果となりかねない。できるとすれば、売場面積と同等のスペースを割いているバックヤードを極力小さくする(≒加工工程をセンターに移行し、最終加工のみを店内で行う)ことであり、対応する供給体制を整えれば、これまでの戦力を維持した都市型店舗を大量に投入することも可能になる。
都下と神奈川は、同じ理由でロードサイド型の有力スーパーの進出が阻まれていたため、人口の多さを考えれば相対的に競争環境が緩いことは間違いない。進出できればヤオコーが一定の戦果を挙げることは確実なのである。