DX失敗A級戦犯の隠蔽手法とスマートファクトリーで激変するアパレルビジネスの姿とは

河合 拓 (代表)
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PLMの複数導入はクスリの乱用と同じ
アパレル業界はPLM導入を今すぐ辞めよ

monticelllo/isotck
複数のPLM導入はクスリの乱用と変わらないという(monticelllo/isotck)

 そもそも、アパレルのサプライチェーンに複数のPLMを導入したらどうなるだろうか(実際、あるアパレルがPLMを導入しようとしたところ、それを受け持つ流通に別のPLMがすでに2つも入っていた)。

 ご存じの通り、アパレル企業は自社で工場をもっていないし、商社もしかりだ。それにもかかわらず、海外生産比率99%の商社、アパレルがそれぞれPLMを導入したら、マスターが乱立し、恐ろしく複雑なサプライチェーンができあがる。

  さらに驚愕なのは、経済産業省のお墨付きでシステムベンダーが、バラバラになったPLMのデータ統合をするシステムを開発、商社やアパレルがそれを導入しはじめているという事実だ。

 昔、天才バカボンという漫画に、「クスリを飲み過ぎるから、クスリを飲まないで済むクスリを飲もう」というギャグがあったが、今の日本の調達はファーストリテイリングと一部のアパレルを除き、この漫画で指摘しているようなクスリ漬けの状態になっている。

 「なんのためにPLMを入れるのか」ということがわからなくなり、膨大な流通コストをサブスクリプションフィーで抜き取られ、製造コストは上昇し続けている。その上昇コストはサプライチェーンに存在する個別最適の利益誘導と、一つの服をつくるのに3つもPLMが入っていることによる、という現実が分からないまま、「ああ、円安だから調達コストが高いなあ」と漫然と感じているだけなのである。

「 3D CADPLMは繋がらない」
という驚くべき事実

 「PLMAPI (他のシステムとつなぐ仕組み)は標準形に則っている」とベンダーたちは説明しているが、残念ながらこれは多いに誤解を招く言い回しである。

 実はPLMは「3D CAD」とは“そのままでは”繋がらないのである。一度、3D CAD(ソフト名はCLO)から絵を吐き出して、手でドラッグしてPLMにいれるのだ。

 今、文化部服装学院をはじめ、ファッション専門学校では生徒に対してパターンメイキングについて3D CADを使って教えている。したがって、年間2万アイテムもある絵を吐き出して、手でドラッグするなどということをやっていたら、生産性は低いままだ。

 それを避け、自動でPLMに流すためには、1000万円というミドルウエアを別途購入しなければならない。こんなことも、プロジェクトが始まってから分かるから「こんな話は聞いていない」という問題が起きる。

 「河合、お前は批判ばかりしてないで代替案をだせ」という声が聞こえてきそうだ。ならば、私の解決案を言おう。

 企業の生産部もベンダーも「サプライチェーンとは何か」「PLMの目的とは何か」を理解していないし、「アパレルのサプライチェーン全体を最適化」する大変さも分かっていない。

 単に、企業の調達領域の紙とファックスを無くしたいなら、「RPA (ロボティクス)の導入なら数百万円の投資で解決する」という私の助言を忠実に守り、PLM導入を辞めた企業は、極めてうまく生産部の仕事の生産性を上げている。また、企業間取引はEDIOKだ。PLMなど使う必要は無いし、あえて言わせてもらえば、一部のアパレルを除きPLMを活用できる能力も無い。

 例えば、オンワード樫山の動きは素晴らしい。彼らはECという自前の店舗をもち、また、大連に自社工場も4つ持っており、店舗と工場の境目なく売場と作り場(つくりば)の両方をコントロールできている。さらに、サンマリノ(専門商社)との密接な業務連携によって商社機能もインハウス化している。こういう企業だけがPLM導入で成功するのだが、あとは、自社の古くなったブランドを次世代のマーケットが許容するかだけだろう。

 ただ、もはや間に合わない企業が多い。PLMはあちこちに導入され悲惨な状況に陥っているし、私が警告しても勝手に進められ失敗している。こうなると、助けようがない。「サプライチェーンの中にはマスターは一つで良い」のだ。ベンダーの売上至上主義にだまされてはならない。

 PLMは諦め、まずは生産調達領域の自動化(ロボティクス)で個別最適化による解決を行えば良い。PLMはどうせ止まるか、ROIを計算すればマイナスになることは明らかなので、思い当たる節があれば可能な限り早く償却することをお勧めする。

 なお、PLMのROI分析は専門家にやらせるべきだ。アパレル企業の生産部は、いざとなると商社に在庫を持たせたり、商社に簿外在庫を協力させたりするなど、本来コストの見える化をすべきPLMにも関わらず、FOBに合算してコストの「見えない化」をして、トータルコストを隠しているからだ。私自身、商社時代にこうして押し付けられた在庫を経営幹部に説明するのに苦労したものだ。こんなことをやっているから、世界で勝てないのである。

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記事執筆者

河合 拓 / 株式会社FRI & Company ltd.. 代表

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

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