サプライチェーン、MD、マーケティングも消滅 「大きなD2C」へ向かう未来のデジタル・アパレルの姿とは

河合 拓
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売場はECが主軸となり、流通は工場ダイレクトに

ipopba/istock
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D2Cといえば、スタートアップかSME(Small Medium Enterprise 中小企業)のことだと勘違いしている人間が多いことに驚く。何を根拠に、メーカーダイレクトのビジネスモデルの売上臨界点が100億円規模だと考えているのか。聞けば、Sheinのことなど知るよしもなく、どこかで聞きかじったレベルで議論にさえならない。

 また、SNSを使ったプロモーションについても、「インフルエンサーを使って、インスタで騒げばいいんでしょ」というレベルである。今、情報は企業よりも消費者の方がもっており、有名人が、本当にその服を着ているなど信じている人はおらず、上記のような手法は全く通用しない。今、アパレルの中心購買層である女性は、

インスタで等身大の女性の中で、憧れのライフスタイルをおくっている人に脳内共鳴し、脳内に「こういう人になりたい」という憧れが醸成され、ウェブやリアル店舗でお買い物を楽しんでいる時に購買に繋がるのだ。この流れを人為的に作り出すことは容易ではない。

男性目線で、有名女優の○○を使ってインスタで騒げば女性は真似をするなどというのは、もはや救いようがないほどセンスがない。

加えて、新型コロナウイルスは、なかなか収束の兆しがみえず、私たち日本人はこのウイルスとあと2-3年はお付き合いしてゆく必要がでてくるだろうと思う。具体的には、外出時にマスクをし、年に2回のワクチンを打つ。ソーシャルディスタンスを保ち、在宅勤務が増える、などだ。

 米国や中国を見ると、「リベンジ消費」といって、我慢の反動で消費が一瞬戻る現象が起きているが、流石に、2年も3年も、巣ごもり消費が一般化されれば、瞬間的な反動など起きるはずもなく、慣れた生活パターンが続くと見る方が自然だろう。そうなれば、EC化率はますます増え、Amazon、楽天ファッション、ZOZO含むヤフー の3大プラットフォーマーが日本のアパレル業界を牛耳ると見るのが自然だ。このとき、彼らは高い流通コストを前提とした日本のアパレルのバリューチェーンをお手本とせず、Sheinなどのような、工場ダイレクトによる「大きなD2C」をめざすはずだ。

 彼らは、ビッグデータを工場に開示しメーカー直販で最も売れる価格帯、デザイン、時期などを分析して個客を捕まえてLTVを最大化させる。必要とあれば工場に投資を行って、スマートファクトリー化し、Iot技術をつかってパーソナルオーダーをデフォルト(標準形)とする。ZOZOZOZOSUITSで成し遂げられなかったことが実現するわけだ。

 例えば、百貨店向けアパレルビジネスを考えてみれば、工場と消費者の間に、商社、アパレル、百貨店と3つの企業が別の販管費を持っている。そもそも販管費というのは、販売に必要な費用なはずなのに、なぜ、百貨店で販売される衣料品の流通の中に3つの異なる販管費が存在するのか誰も疑問に思わない。これに対して、デジタル企業がビッグデータを工場に開示し、工場直販でこれらEC企業のPBを作ったとしたら、その流通コストの差は莫大なものになり、私は無敵のユニクロでさえ危うい存在になるのではないかと思う。実際、Sheinは、ECではZARAもユニクロも売上で抜いており、数年以内に総売上でZARAをも抜かすだろうと言われている。

 

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