「大きなD2C」へ向かう未来のデジタル・アパレルの姿とは
マーケティングという概念が消える
マーケティングというのは、その語源は「何かをマークする」という意味であった。マーケティングの歴史は、「ナローキャスティング」(限定されたターゲットをねらう広告宣伝活動)の歴史であり、古くは、所得、年齢、居住地など、様々なセグメントによる切り口を時代とともに細分化し、新しい切り口を見つけることがマーケターの腕の見せ所だった。しかし、SNSの発達で、個人同士が国境を跨いで繋がる今、もはや霜降り牛の油のように世界に点在する同一購買特性をもったクラスターを特定することは困難である。例えば、私はリンクトインに入っているが、毎日のように世界中の人間からコンタクトがある。
このように、時代は、ナローキャスティングをいくら尖らせても、もはや自社ブランドを販売するセグメントに出会うことは困難となり、唯一解はビッグデータを活用したパーソナライズしかない。実際、Amazonのポータル画面は、私個人専用となり、私に届くメールマガジンは、私の購買履歴から想起される商品提案で満ちている。つまり、マーケティングというのは、初期的にブランドを立ち上げる時には必要になるが、オペレーションに入った時点で消滅するわけだ。マーケティングの終着点はパーソナライズである。
MDという概念が消える

同時に、MDという概念も消える。そもそも、MDというのは「マーチャンダイジング」の略で、日本語に訳せば「商品」であり「商品計画」のことだ。そこには、「顧客」という概念が存在せず、基本的なMD業務の組み立ては「過去の商品の売れ行き動向」から、将来を予測するというもの。個客の生涯価値を掴むことが重要になった今、この手法は本質的に、構造的な欠陥を孕んでいることはおわかりだろう。
今後、ウェブを使った販売が主流となれば、個客一人ひとりの購買履歴がビッグデータとして分析可能だ。だから、個客が必要としている商品を分析してレコメンドする方が、個客不在の商品動向から将来予測をするより理にかなっている。MD業務とは、ビッグデータ解析の時代においては、化石時代の発想なのだ。商品軸の業務を、顧客データを無視してAIを使って将来予想するなど、「人力車にカーナビをつける」ようなものだ。
河合拓のアパレル改造論2021 の新着記事
-
2022/01/04
Z世代の衝撃#4 Z世代を追えば敗北必至!取るべきトーキョー・ショールーム・シティ戦略とは -
2021/12/28
Z世代の衝撃#3 既存アパレルが古着を売っても失敗する明確な理由とは -
2021/12/22
インフルエンサー・プラットフォーマー「Tokyo girls market」驚異の戦略とは -
2021/12/21
プラットフォーマー起因の歪な過剰生産が生み出す巨大ビジネス、SheinとShoichi -
2021/12/14
Z世代の衝撃#1 ライブコマースで「インフルエンサー・マーケティング」が失敗する衝撃的理由 -
2021/12/07
TOKYO BASEがZ世代から支持される理由と東京がショールーム都市になる衝撃
この連載の一覧はこちら [56記事]

関連記事ランキング
- 2025-04-21従来型のカイゼンは限界に……賃上げをめざすアパレルチェーンが急ぐべき構造改革の要諦
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2025-03-04青森ダウンなどSANYOCOATの10~20万円の高額アウターが飛ぶように売れる理由
- 2025-05-12ユニクロとしまむら、フェーシング数量に見るロジスティクスと商売哲学の違い
- 2024-06-19インバウンドで最高益続出!日本人が知らない「百貨店の価値」とは
- 2025-04-24業態別 主要店舗月次実績=2025年3月度
- 2023-08-08EC時代にスクロールとベルーナだけ好調 生き残るカタログ通販、死ぬカタログ通販
- 2021-05-04大丸、三越伊勢丹…誰も語れない百貨店分析 政府の施策が百貨店を殺す「本質的理由」
- 2022-12-06三陽商会「大江改革」の実態 繰り返す縮小均衡と連続赤字の先にある希望とは
- 2024-06-11日本人の服がこの10年で「ペラペラ」になった本当の理由