ライフウェアは完成形に!+Jが可能にするユニクロ全方位戦略のすごさ
3月19日は、ファッション好きが待ち望んでいた日だった。ファーストリテイリングが放つ本格世界ブランド「+J」の春夏物の販売日だったためだ。今回はファーストリテイリングがいま、+Jを使って完成させようとしていることは何かについて、またこの躍進は日本のアパレル産業の歴史において、なぜ、そしてどこから生まれてきたのかについて冷静に分析したい。ユニクロだけを絶賛し、変革の苦しみの途上にある両者を全否定する論調からは何も新しいことは生まれないのである。
ファストリのライフウェア戦略は+Jが完成させたと言える理由
あらためて説明するまでもないが、+Jとは世界的ドイツ人デザイナー ジル・サンダーの頭文字を取ったものだ。つまり、ユニクロ品質・価格競争力に、ジルサンダーのデザインテイストをプラスした商品が+Jで、2020年に再登場 (2009年にファーストリテイリング社とジル・サンダー氏はデザインコンサルティング契約を結んだ)したときは、朝からウエブサーバがダウンするほどの白熱ぶりを見せた。メンズ商品でいえば、ドレスシャツをわずかに残すのみでニット、ストールなどはその姿さえ見ることはできないほど完売状態だった。今回もやはりニット・カットソーの類は数日で完売していた。
私はシルク混のニットを2枚手に入れた (+Jは、同一品番は一人1枚、最高5枚までしか買えない)のだが、ありとあらゆるニット製品を作り、世界中の糸を触ってきた私が、その肌にまとわりつくようなドレープ感 (シルクが持つ独特のたわみ)に味わったことのない着心地を感じ、これが糸の宝石「カシミア」の春夏版かと納得し、またその正規上代価格が6000円以下であることに二重の驚きを感じた。この+Jの春夏版は、なんと、追加生産を行い4月中旬に再販をする告知を行っている。
経営コンサルタントとして、仕事ではファーストリテイリング以外のアパレル企業に発破をかけ、競争力を持たせてこのファッション業界に健全な競争を再燃させることに力を注いできたが、一消費者としては無類のユニクラーである私の洋服ダンスのユニクロ率は年々高まっている。
私のように、ユニクロのコスパは認めるものの、どこか野暮ったい色やスタイルに買うものを選んでいる層は確実にいるのだが、この+Jは、こうした層にリーチしている。
ところでこの+J、必ず欠品するのは、同社の販売力から言っても不思議だ。なぜなら、同社は、銀座という高級立地でさえ高い予算を作り赤字は認めていないからだ。
つまり、+Jはあえて生産量を落とし、希少性をだすことで、同社悲願の「プレミアムブランド」を作り上げた。それによりファーストリテイリングが提唱する「ライフウエア」という第三軸(後述)を完全なものにしていると私は見ている。悲願だった「プレミアム・ブランド」パワーを、ダブルネーム(自分以外のブランドの名前を使うことでブランド力を高める手法)によって成し遂げたわけだ。
河合拓のアパレル改造論2021 の新着記事
-
2022/01/04
Z世代の衝撃#4 Z世代を追えば敗北必至!取るべきトーキョー・ショールーム・シティ戦略とは -
2021/12/28
Z世代の衝撃#3 既存アパレルが古着を売っても失敗する明確な理由とは -
2021/12/22
インフルエンサー・プラットフォーマー「Tokyo girls market」驚異の戦略とは -
2021/12/21
プラットフォーマー起因の歪な過剰生産が生み出す巨大ビジネス、SheinとShoichi -
2021/12/14
Z世代の衝撃#1 ライブコマースで「インフルエンサー・マーケティング」が失敗する衝撃的理由 -
2021/12/07
TOKYO BASEがZ世代から支持される理由と東京がショールーム都市になる衝撃
この連載の一覧はこちら [56記事]
ファーストリテイリング(ユニクロ)の記事ランキング
- 2024-11-13値上げしたのにアパレル業界が利益に結び付かない2つの理由
- 2024-11-07同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ
- 2023-08-28ユニクロと東レとのサステナブルな関係から生まれたリサイクルダウン
- 2024-09-03アローズにビームス…セレクトショップの未来とめざすべき新ビジネスとは
- 2021-03-05ビジネスは「一勝九敗」 ファーストリテイリングを世界的大企業に導いた“柳井哲学”
- 2024-01-02勝ち組はSPAではなく「無在庫型」へ 2024年のアパレル、5つの受け入れ難い真実とは
- 2021-05-04大丸、三越伊勢丹…誰も語れない百貨店分析 政府の施策が百貨店を殺す「本質的理由」
- 2022-01-11ZARAとユニクロだけがなぜ余剰在庫を撲滅できるのか?本人達も気づいていないメカニズムとは
- 2024-08-27好調アパレルに異変?在庫回転率悪化の複数要因とファストリ改善の理由
- 2024-09-27ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
関連記事ランキング
- 2024-11-05ユニクロがZOZOに出店しない当然の理由と今後のECモールとの付き合い方
- 2024-11-19ユニクロ、開始から7年で明らかになった有明プロジェクトのいまとすごい成果
- 2024-11-12アパレルは「個人売買」「古着」が、今後驚くほど拡大する理由
- 2024-11-26イタリア繊維産業に学ぶ、高くても売れるビジネスの秘密とは 染めと売り方が段違い
- 2024-11-13値上げしたのにアパレル業界が利益に結び付かない2つの理由
- 2024-09-17ゴールドウイン、脱ザ・ノース・フェイス依存めざす理由と新戦略の評価
- 2024-11-07同じ低価格なのに…GUがしまむらやワークマンと「競合」しない決定的な理由_過去反響シリーズ
- 2021-11-23ついに最終章!ユニクロのプレミアムブランド「+J」とは結局何だったのか?
- 2023-08-08EC時代にスクロールとベルーナだけ好調 生き残るカタログ通販、死ぬカタログ通販
- 2024-10-29ライザップ傘下の夢展望、Temu効果で株価高騰も拭えない「不安」とは
関連キーワードの記事を探す
ユニクロ柳井会長がウイグル綿花不使用発言に至った理由と影響、その複雑な背景とは
イタリア繊維産業に学ぶ、高くても売れるビジネスの秘密とは 染めと売り方が段違い
ファストリが3兆円突破!24年8月期決算で語られた今後の成長戦略
ファストリが3兆円突破!24年8月期決算で語られた今後の成長戦略
「亜熱帯化」でも売上を伸ばすユニクロ、伸び悩むアパレルとの違いとは
ユニクロが中間価格帯になったことに気づかない茹でガエル産業アパレルの悲劇_過去反響シリーズ
ユニクロ柳井会長がウイグル綿花不使用発言に至った理由と影響、その複雑な背景とは
イタリア繊維産業に学ぶ、高くても売れるビジネスの秘密とは 染めと売り方が段違い
あなたの会社はいくら?いよいよ始まるアパレル大買収時代と正しいデューデリジェンスの手法
なぜあなたの会社は利益が出ないのか? 間違ったKPIが企業を窮地に追い込む実態
全産業中ワースト2位の不都合な真実、アパレル業界の環境破壊と人権問題を解決する方法