顧客分析とプロセスセンター駆使する合理的スーパー、オギノがセルフレジを導入しない理由

聞き手:阿部 幸治 (ダイヤモンド・チェーンストア編集長)
構成:リテイルライター:太田美和子
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PC活用を推進する一方レジの自動化は進めない!

オギノの精肉売場
オギノは生鮮PCを早期から導入。精肉部門はほとんどの店で100%PCから商品を供給する。売場ではFSP分析による調味料の関連販売が丁寧になされている

──低価格の実現にはローコスト運営が欠かせません。そうしたなかオギノはPCの導入に業界でもいち早く取り組んできました。

荻野 93年に生鮮PCを立ち上げて以降、店内作業を徐々にセンターへ移管してきました。

 現在では繁盛店での一部の作業を除けば、精肉は100%センターから商品を供給しています。センター化が難しかった鮮魚も、鮮度が落ちにくい魚種を中心に全体の約7割をセンターで加工できるようになりました。これにより鮮魚部門は数年後に黒字化を達成できる見込みです。

 近年需要が高まる総菜でもPCでの一次加工を進めています。ベーカリーでは取引先メーカーさんと数年にわたって研究してきた冷凍生地の活用を広げています。

 近年、人件費はますます上昇しており、これを低減できるように当社ではPCの機械化にいっそう力を入れていきます。このように生産性を向上させるための具体策が打てるのはPCがあるからこそです。この存在は当社の競争優位性になると確信しています。

 中長期的には、PCだけではなく物流センターを含めたサプライチェーン全体の合理化も進めたい考えです。

 とくに、取引先メーカーと当社の物流センターをつなぐ部分の物流にはまだ無駄が非常に多いです。こうした後方物流のシステム化が整っていない企業は今後生き残りが難しくなると思います。

──後方機能で効率化を図る一方、お客さまとの接点には人手をかけています。

荻野 そうですね。当社では、セルフレジもセミセルフレジも導入していません。山梨県の人口は約80万人と少ないうえに減少傾向にあり、こうした環境下では一人ひとりのお客さまを大切にしていかなければ事業が成り立たないと考えているからです。お客さまの中にはお体が不自由な方や高齢の方もいるため、お手伝いが必要なときもあります。お客さまの利便性を担保しながら、合理化を進めていくのが当社の方針です。

──お客さまの利便性という点では、ネットスーパー事業も展開しています。

荻野 2012年からサービスを開始し、現在では3店舗に各5人(1日8時間換算)の専任担当者を配置し、そこから甲府盆地の半分ほどのエリアに商品を届けられる体制を構築しています。

 コロナ禍ではとくに4~5月に売上高が同160%に増えました。しかし、オギノの商勢圏で宅配マーケットが飛躍的に伸びていくとは見ていません。県内の主要エリアであればクルマで15分圏内には当社の店舗がありますし、クルマ社会の山梨県では、ネットで注文するよりも来店して自分で買物をしたほうが便利という人が圧倒的に多いです。

 当社のネットスーパーを継続的に利用していただいているのは高齢者が多いです。そのため注文を忘れないように全体の3割ほどの方にはこちらから定期的に電話で注文を聞いています。注文を待つのではなく、こちらからご連絡するのは、事前に確認することで業務スケジュールを効率的に組むためです。

 最近では「ネットで注文した商品を店頭で受け取りたい」という要望もあり、実験を計画しています。新たなビジネスになるかではなく、いかにお客さまのライフラインとしての機能を充実できるかで導入を判断したいと思います。

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聞き手

阿部 幸治 / ダイヤモンド・チェーンストア編集長

マーケティング会社で商品リニューアルプランを担当後、現ダイヤモンド・リテイルメディア入社。2011年よりダイヤモンド・ホームセンター編集長。18年よりダイヤモンド・チェーンストア編集長(現任)。19年よりダイヤモンド・チェーンストアオンライン編集長を兼務。マーケティング、海外情報、業態別の戦略等に精通。座右の銘は「初めて見た小売店は、取材依頼する」。マサチューセッツ州立大学経営管理修士(MBA)。趣味はNBA鑑賞と筋トレ

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